NITSニュース第254号 令和8年3月19日
学校のイノベーションを本格的に!
堺市立新檜尾台小学校 校長 古谷俊之
2019年にベストセラーになった米国大学教授の著作『両利きの経営』は、一見すると企業経営の本のように思われるかもしれません。しかし、VUCA時代に生きる子ども達を育てる私たち教職員も是非読んでおきたい書物ではないかと思います。この「両利き」とは、企業における「既存事業の強化」と「新規事業の立ち上げ」を両立させるということです。著者は前者を「知の深化」、後者を「知の探索」と言い換えて、21世紀の企業の成長と生き残り戦略には両方のイノベーションが必要であることを説いています。学校に置き換えれば「従来からの教育の改善及び強化」と「時代の要請に応える新しい教育の展開」というところでしょうか。
さらに昨今の教育の状況を鑑みると、「基礎的な教育の更なる深堀り」と「探究的な学びの推進」と捉えられるのではないでしょうか。私の根底にあるのは、時代の要請に従えば、学校経営も企業経営も本質は同じであるという思いです。予測不可能でスピーディーに進む時代では、「両利きの経営」の概念を学校経営でも早急に展開せねばならないことの1つとして考え、本校の経営において重視しています。
そのため、「両利きの経営」の視点は、全国の教職員の皆さんとも共有したいと思っています。既成の価値観だけでは対応しきれない時代が到来している今、イノベーションへの意識を共に高めながら学校教育を前進させていけたら幸いです。
実は、改めてこのことを深く考えることとなったきっかけは、本校教務主任とNITS探究型研修のコア研修2年コース(※管理職と教諭のペアで参加し、自校の課題解決に向けて2年間探究的に取り組む研修) へ参加したことでした。「探究とは」「学校の存在意義は」といった問いに対して、ある時は二人で、ある時は他校の管理職と議論しながら、私自身の心の奥底にある概念が引き出され、私の「考える力」は強靭化されました。地球規模で物事を考える時代が到来しながらも世界秩序が複雑化している中で、私が子ども達に最優先してつけたい力は、この「考える力」です。そこで、いつもパスカルの言葉「人間は考える葦である」を念頭においています。他の動物と異なり、言葉・メタ認知・発明力等の人間特有の能力を、「考える力」の育成を通して如何に学校教育で展開していくか、試行錯誤の連続です。NITSの研修で実感したように、「考える力」は問いを重ね、他者と対話する中でこそ育まれるものだと思います。それは子どもも教職員も同じではないでしょうか。そうした学びの環境を学校の中にどのようにつくるか──その問いが、本校の実践につながっています。
私はこれまで、子ども達の「考える力」向上のために、ESDにおける課題解決に必要な「7つの能力・態度」を重視してきました。生成AIやIoT時代が到来する中、さらに探究的な学びにおける「問いを立てる力」も加えました。その実現のために、総合的な学習の時間の専科教員を配置して、「問い」を重視した授業展開を行ったり、カリマネを実施して教科連携から総合的な学力の育成を図ったり、研究主任を中心に、「問いを立てる力」の研究・実践に取り組んだりしています。従来の「教師が教える授業」から「児童が学び取る授業」への改革のためには、学校だけでなく世の中との関わりが近道と考え、社会に開かれた教育として産官学民連携を積極的に図っています。学力に直結しているかは精査中ですが、児童会の活発化・地域行事の参加者増・発表力向上等、児童の行動変容─「知識の学び」から「知恵の学び」─は確実に高まっています。こうした学校での実践は、社会とのつながりの中でこそ意味を持つものなのではないでしょうか。
VUCA時代に生きる子ども達にとって大切なことは、「みんな違っていい」ということを社会が認め、一人ひとりの「考える力」が発揮される環境づくりだと考えます。その異なる「個」と「個」が対話や熟議することにより新たな価値創造が生まれ、イノベーションにつながると捉えています。まさしく学校経営も企業経営もめざすベクトルは同じであり、私たち教職員は学校という「教育の世界」と社会という「広い世界」とのつながりをどのように紡いでいくことがよいのか、といったことを考えながら社会と関わることが大事ではないかと考えます。同時に、「相似形」を意識しながら子ども達の学びの空間を広げていくことを大切にしていきたいという願いを込めて、筆をおくことにします。