NITSニュース第215号 令和5年7月7日

人権教育と特別活動

東京学芸大学 教授 林尚示

これまでのNITSニュースをもとに人権教育の着眼点を整理し、次に文部科学省の人権教育に関する資料を確認し、最後に、人権教育の具体的な実践場面としての特別活動の特徴についてまとめてみたいと思います。

これまでの人権教育の着眼点

NITSニュースのバックナンバーを見てみると、現在でも十分に価値のある内容が様々存在します。NITSニュース第196号(令和4年・梅野正信氏のコラム)では、文部科学省の「人権教育を取り巻く諸情勢について ~人権教育の指導方法等の在り方について〔第三次とりまとめ〕策定以降の補足資料~」の紹介があります。

また、同第144号(令和2年・梅野正信氏のコラム)では、ハンセン病問題に関する人権教育の推進に関する内容があります。同第93号(令和元年・林尚示のコラム)では、人権教育と総合的な学習の時間や特別活動との関係について紹介いたしました。同第51号(平成30年・梅野正信氏のコラム)では、文部科学省によって設置された、学校教育における人権教育調査研究協力者会議についての説明があります。同第22号(平成29年・梅野正信氏のコラム)では、当時のG7教育大臣会合「倉敷宣言」(平成28年5月)のキーワードが整理され、抽出された教育的課題のほとんどが人権教育に関するものであることを明らかにしています。

このようにみると、長年にわたって人権教育調査研究協力者会議の座長を担当された梅野正信氏のおかげで、人権教育に関する様々な情報が共有されてきたことが分かります。文部科学省の「人権教育の指導方法等の在り方について〔第三次とりまとめ〕」(平成20年:以下「第三次とりまとめ」)以降、当時のG7の「倉敷宣言」(平成28年5月)が出され、学校教育における人権教育調査研究協力者会議(平成29年~)が設置され、ハンセン病問題に関する人権教育が推進され、「第三次とりまとめ」の補足資料も出されてきました。

文部科学省の人権教育に関する資料を活用しましょう

「第三次とりまとめ」(平成20年)では、学校における人権教育の目標を、「児童生徒がその発達段階に応じ、人権の意義・内容や重要性について理解し、[自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること]ができるようになり、それが様々な場面や状況下での具体的な態度や行動に現れるとともに、人権が尊重される社会づくりに向けた行動につながるようにすること」としています。「自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること」というフレーズは、児童生徒の皆さんにも伝わりやすい表現ですので、ぜひとも各学校で「人権教育」という用語とセットでご活用ください。

「第三次とりまとめ」(平成20年)では、人権教育を通じて育てたい資質・能力として、人権に関する知的理解と共に、人権感覚(価値・態度的側面/技能的側面)が取り上げられています。特に価値・態度的側面や技能的側面は、体験的な教育活動を通して児童生徒に育てていきたい内容です。

また、「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]補足資料」(令和5年3月改訂)は、教育委員会や学校で人権教育の内容を検討する際に、「第三次とりまとめ」(平成20年)と併せてご活用いただくもので、「生徒指導提要」(令和4年12月改訂)や第二次再犯防止推進計画(令和5年3月閣議決定)、ハンセン病問題にかかる動向についての追記があります。

上記の「生徒指導提要」(令和4年12月改訂)では生徒指導の定義に「児童生徒が、社会の中で自分らしく生きることができる存在へと自発的・主体的に成長や発達する過程を支える教育活動」とあります。それぞれの児童生徒が社会の中で自分らしく生きるためには、人権感覚の育成の併用が不可欠です。また、「第二次再犯防止推進計画」(令和5年3月閣議決定)では、「文部科学省は、(中略)いじめ防止のための教育や、人権尊重の精神を育むための教育と併せ、(中略)支援体制の充実を図る」と記されています。

人権教育の具体的な実践場面としての特別活動

特別活動は学級活動、ホームルーム活動、児童会活動、生徒会活動、クラブ活動、学校行事を内容とする教育活動です。前述の[自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること]という人権尊重の理念は、集団や社会の形成者としての見方・考え方の基礎となるため、特別活動全般に関わります。

また、生徒指導の定義にある「社会の中で自分らしく生きる」ということは、例えば学級活動やホームルーム活動の「一人一人のキャリア形成と自己実現」や学校行事の「勤労生産・奉仕的行事」での上級学校・職場への訪問・見学などで児童生徒に指導することができます。ハンセン病問題については、例えば学校行事の「文化的行事」で講演会を開催して児童生徒に指導することができます。

人権教育の推進については、誰しもご賛同いただけることですが、学習指導の面では、次期の学習指導要領に人権教育をどのように組み入れていくかといったことは今後の課題になります。