NITSニュース第196号 令和4年8月19日

学校における人権教育~施策の新しい展開をふまえて~

学習院大学 文学部教授 梅野正信

文部科学省による「人権教育の指導方法等の在り方について〔第三次とりまとめ〕」(平成20年:以下「第三次とりまとめ」)は、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」(平成12年)と「人権教育・啓発に関する基本計画(閣議決定)」(平成14年「基本計画」)に基づいて作成された、人権教育を推進するための公的な基本文書です。「人権」「人権教育」「人権感覚」「人権教育の視点に立った学校づくり」「協力的」「参加的」「体験的」な学習など、一度は聞かれたことがあると思います。
令和3年3月、文部科学省は「人権教育を取り巻く諸情勢について~人権教育の指導方法等の在り方について〔第三次とりまとめ〕策定以降の補足資料~」(「補足資料」)を公表しました。「第三次とりまとめ」から13年を経て、新しい段階を迎えた人権教育施策の最新情報が整理されています。現在は令和4年3月(更新版)が掲載されています。

「補足資料」(令和4年更新版)から、「新しい展開」のポイントをご紹介します。
ポイントの第一は、「第三次とりまとめ」以降、人権教育は、学校関係者の多大な尽力により着実に進展してきたこと、そして人権教育の推進は、今日なお一層、学校と教育における最重要課題であり続けているという指摘です。「第三次とりまとめ」が指摘した「人間の生命はまさにかけがえのないものであり、これを尊重することは何よりも大切なことである」という一文は、COVID-19の感染下で、また国内外の事件を見聞きする中で、多くの国民、先生方が、実感をもって理解されているのではないでしょうか。

ポイントの第二は、平成29、30、31年版の学習指導要領との関連について、重点項目と説明される「主体的」「対話的」「深い学び」「社会に開かれた教育課程」「カリキュラム・マネジメント」のいずれも、「第三次とりまとめ」以来、教育委員会や学校で意識的に取り組まれてきた内容と、密接に重なっているという指摘です。筆者もまた、主体的に学び、対話を重ねて学びを深め、地域社会と連携し、教科横断的にアプローチする取り組みは、ほかならぬ人権教育の取り組みそのものといって、過言ではないように思います。

ポイントの第三は、人権に関わる個別課題の記載が、大きく充実してきたことです。「基本計画」や「第三次とりまとめ」の段階でも、「女性」「子ども」「高齢者」「障がい者」「同和問題」「ハンセン病」等の人権課題について、それぞれ課題の説明と政府の対応が記載されていました。
これに対して「補足資料」では、ここ20年近くの間に成立した人権課題関連の法律、人権教育の推進を盛り込んだ通知や文書、すなわち、人権及び人権教育施策の成果が、数多く掲載されています。例えば、

などです。
これらの社会的課題の多くは、ほかでもない人権及び人権教育の課題そのもので、日本政府が国の内外に取り組みを宣言した多くの課題でもあり、現実に法の制定や施策が進められてきたこと、その内容と質、あるいは法成立の数からみても、戦後75年を超える中、この20年が画期の一つであったことが、よく理解できます。
なお、日本は、国連が推進する「人権教育のための世界計画」の全てのフェーズで共同提案国となってきました。人権重視社会に舵を切った国連と共に、日本もまた、これをリードする国の一つです。このことも、あわせて指摘しておきたいと思います。

「補足資料」の最後に、⑩新型コロナウイルス感染症による偏見・差別への対応、と⑪「ビジネスと人権」に関する行動計画の策定が記載されています。前者は、医療の課題であるとともに、いのちと人権を尊重する人権と人権教育の課題にほかならないこと、また、後者は、国際的にも、日本国内においても、社会の隅々まで人権尊重の徹底(Human Rights Due Diligence: 常に人権への影響と対処・対応を調査・発信を重視する企業活動(筆者の要約))が強く求められる時代、社会全体が人権と人権教育を必須の条件とする時代であることを教えてくれます。

「補足資料」に加えて、人権教育の成果について、説明を加えます。
文部科学省の人権教育研究推進事業では、令和4年5月公表の「令和3年度人権教育研究推進事業・成果物概要」から、その様式とスタイルが一新されました。これまで以上に研究内容と特色が理解しやすく、比較しやすくなっています。是非ご覧ください。そして、多くの学校、地域からの、人権教育研究推進事業へのご応募を期待しています。