NITSニュース第184号 令和4年1月14日

コーチング ~共通のゴールに向かうパートナーシップ~

ナラティブコミュニケーション教育研究所 所長 佐藤敬子

私がコーチングのライセンスを取得したのは2004年、今から18年前のことです。 当時は「コーチング」という言葉も、教育界にはそう広くは知られていませんでしたが、今では企業はもとより官公庁の人材育成や全国の教員研修で、その考え方やスキルが活用されています。 今回改訂された「学習指導要領」では、知識を使って考え、「問題解決能力」や「創造性」「思いやり」などの資質・能力を身につけるという内容が強調されています。

コーチングは相手の自主性を促し、能力や可能性を最大限に引き出しながら、目標達成に向けてモチベーションを高めるコミュニケーション手法です。 そのプロセスは、①相手をよく観察する、②日頃から良好なコミュニケーションをとる、③相手の気持ちをきく、④相手の承認欲求を満たすことで自己肯定感を育む、⑤効果的な質問をすることで相手の問題解決能力を養う、というものです。 これらは、今まさに「学習指導要領」で求められている内容です。

さて、学校評価やカリキュラム・マネジメントで応用されている「PDCAサイクル」はおなじみの手法ですが、急速な社会の進展と目まぐるしく変化する環境の中で注目されているのが、「OODA(ウーダ)ループ」(アメリカ合衆国の戦闘機操縦士であり、航空戦術家でもあるジョン・ボイド氏が提唱した意思決定方法)です。

OODAループとは、Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(実行)の頭文字4つで構成されています。 ①相手を観察することによって現状を認識し、②観察結果から状況判断し、③具体的な方策や手段に関する意思決定を行います。 この時点で判断材料の不足に気づけば、観点を変えて②の観察に戻ってループすることも可能です。 ④そして意思決定したことを実行に移します。 この手法もコーチングのプロセスと共通するものがあります。

PDCAサイクルが学校経営やマネジメントなどの内部に注目する一方、OODAループは子どもをめぐる家庭環境や人間関係、外的環境など外界の要素に注目します。 また、OODAループは変化に応じて、途中で前の段階に戻りループを再開するため、急な状況の変化に対しても素早く適切な状況判断・意思決定・実行が可能です。 長期的なPDCAサイクルを回しながら、変化に応じてOODAループを行うことにより、相乗効果が期待できます。

今後、どんなに機械やAIが発達しても、まだまだ人間には機械に代替できない能力があります。 それは「答えのない問いに対しても、自ら問題解決を図ろうとすること」「興味、関心、意欲」「自分の気持ちや相手の気持ちをわかろうとすること」です。 これらは将来、社会がどのように変化しても必要とされる能力であり、これらを育むのは、機械やソフトウエアではなく、先生方の人間力と確かな教育力であると確信しています。

教育環境、校種、経験年数、年齢、立場、考え方など、それぞれが違っても子どもを中心にしてみると、教師も保護者も共通のゴールは「子どもの社会的自立」という一つのものです。 共通のゴールに向かい、パートナーシップをもって教育に邁進したいと考えています。

昨年からコロナ禍の影響で、NITS主催の中央研修をはじめ、全国での集合研修をオンラインに変更したものが多くありました。 講師として、画面上でも先生方とのやり取りが多くできるよう工夫をし、事務局の皆様の丁寧なご配慮で少しでも臨場感のある時間にしたつもりです。 一方で、短時間でも先生方がお互いに直接顔を合わせて語り合い、同じ場の空気を感じながら学びを共有することができる、対面式の研修効果を改めて認識した一年でもありました。