NITSニュース第182号 令和3年12月10日

幼児教育の質の向上と小学校を核とした地域の連帯

京都教育大学 教授 古賀松香

質の高い幼児教育は、特に発達のリスクを抱えた子どもの育ちを支え、就業率や学業成績向上等に寄与することが諸外国の研究によって明らかにされています。 このことは、日本においても注目されていますが、いかにして全国の園の幼児教育の質を向上させるのかについては、まだ課題が多くあります。

オンライン講座「校内研修シリーズ」でもお話しさせていただきましたが、幼児教育の質は多層的な構造で成り立っています。 例えば、その質向上の取組についても、園毎に取り組めることから市町村、都道府県、各種職能団体、民間企業が関わって取り組めることなど、多層的に存在し、それぞれが子どもの体験を豊かにすることに影響を及ぼしています。

今回は、その多層的な幼児教育の質を、小学校を核とした地域の連帯の中で高めることを考えてみたいと思います。 現在、文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会に「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」が設置され、議論が進められていますが、幼児教育の質向上は小学校教育への接続を考える上でも非常に重要です。 この接続を難しくしている要因の一つに、幼児教育施設の多様化があるでしょう。 公立・私立、幼稚園、保育所、認定こども園、その他多様な施設は認可外まで幅広く、しかも地域毎にその構成が大きく異なります。 幼児教育の質の向上を考える上で、この地域特性に応じたシステムを構築する必要があります。

その際、一つの重要な単位となるのが、小学校通学区域だろうと思われます。 A小学校の通学区域にある幼児教育施設に通ってきていても、異なる地域のB小学校に入学する子どももいるでしょう。 しかし、それは本質的な問題ではありません。 すべての子どもの発達を支えるために、それぞれの幼児教育の質を捉え、高め、また、内容や方法等の小学校教育への接続を考えることが重要なのです。 そのことを推進していくために、有効に機能する単位として、小学校通学区域内の教育施設の連帯を形成していくことが考えられます。

例えば、これからの季節、幼児教育施設では年長児の劇遊びを進めていくところが多くあるでしょう。 ある園では、保育者が主導してシナリオから衣装まで、すべて大人が決めたものを幼児に覚えさせているかもしれません。 一方、ある園では、子どもたちが大好きなお話から劇がしてみたくなり、自分たちでセリフや舞台の背景、音楽を考えていくかもしれません。 発表会よりもむしろ、そこに至る実践のプロセスを、幼児教育施設間だけでなく小中学校の先生とも、共に見合うことから始めるのです。 保育者の援助や魅力的な環境構成の在り方について、また、そこで見られた子どもの姿から、この地域の子どもたちにどのような育ちを願うのかということまで、対話を重ねていきます。 こういった実質的取組から、子どもにとって重要な実践の質を考える地域の連帯を創る。 このことこそ、それぞれの実践の質を見つめ、子どものために質を高める実効的な取組になるのではないでしょうか。