NITSニュース第181号 令和3年11月26日
学習への努力は裏切らない
新潟大学 教授 長澤正樹
発達障害の子どもだけではなく、その特性のために特別な教育的支援を必要とする子どもたちがたくさんいます。 しかし、担任一人で、それぞれの特性に合った指導や支援を実施することは容易ではありません。 そこで多様性への対応として基本ルールがあるのです。 内容は次の通りです。
①学習のユニバーサルデザイン(UDL)
どの子にもわかりやすく参加できる学びとして普及しています。 具体的な内容は資料1(※新潟大学 教職大学院 長澤研究室ホームページ) を参照してください。
②段階的対応
UDLですべての子どもの学びを保障することはできません。 UDLで結果が出せなかった子には、段階的に特別な対応を保障します。
③多様な手段
UDLも段階的対応も、対象となる子どもの教育的ニーズに合わせて柔軟に選択します。 UDLの場合、○○学校スタンダードと称して全校で同じ対応を実施する学校が見られます。 スタートは同じであっても、子どもの反応(結果)に合わせて手段は変えるべきです(Basham,2020)。
②について、学習の場合を説明します。 UDLで結果が出せなかった子には、その子に合った学習の機会を保障しましょう。 いろんなやり方があると思いますが、「少人数・個別学習の機会の保障、学力の実態に合わせた学習計画の作成と実行、学ぶ時間を十分に確保し、理解を確認しながら同じレベルの問題を繰り返す、そして目標のレベルアップ」は大切な条件です。 通常の学級での一斉指導で学習が困難な児童に対して、みんなが学んでいる内容と同じ学習を、別室の少人数で指導したところ、学力が身についたことを報告しました(長澤、2020)。 教える人手の確保という課題はありますが、校内の人材をやりくりして対応した学校もあります(金子、2018)。
私見です。
学習困難な子にも学力は必要と考えます。
学力を捨てて一芸で身を立てることこそ、かなりむずかしいのではないでしょうか。
有名な漫画家・水木しげる先生は次のようにおっしゃっています。
「才能と収入は別。努力は人を裏切る」
深いことばですね。
一芸で成功するむずかしさを意味していると思います。
しかし私は、「学習への努力は裏切らない」と信じています。
学習が困難な子どもでも、自分のペースで学び続ければ、生活や仕事に必要な学力は身につくはずです。
できれば個別の学習計画を作成し、自己の学力の実態を受け入れ、できる目標を自ら設定して目標達成をめざしましょう。
つまり人と比べない学習を保障してあげるのです。
なぜならすべての不幸は人と比べることから生じるからです。
- 資料1 学習のユニバーサルデザイン(UDL)新潟大学 教職大学院 長澤研究室ホームページ
文献
- Basham, J. D., Gardner, J. E. & Smith, S. J. (2020) Measuring the Implementation of UDL in Classrooms and Schools: Initial Field Test Results. Remedial and Special Education,41(4),231-243.
- 長澤正樹(2020) 素行症、ギフテッド、学習困難-特別支援教育、多様な対象への対応-。日本行動教育・実践研究,40,15-22.
- 金子美也子(2018) 特別支援教育・生徒指導・教育格差解消の視点をもった実態把握と ST 支援による校内支援体制について。日本LD学会 第27回大会(新潟)論文集