NITSニュース第180号 令和3年11月12日

子どものこころのケア

跡見学園女子大学 教授/心理教育相談所長 松嵜くみ子

「子どもは無邪気で 元気」とはいかない時代になってきています。 頭が痛い、おなかが痛い……体の不調を頻繁に訴える子どもたち。 授業中、ぼーっとしていたり、宿題もなかなか、こなせない子どもたち。 少し思うようにならないと、イライラして、なかなか落ち着くのが難しい子どもたち。 どうせ自分なんて……と投げやりな気持ちを秘めている子どもたち。 いろいろなことが心配で、登校が難しい子どもたち。

その背景には何があるのか……よくはわかっていません。 現代の便利な生活は、大人や子どもの気力・体力を弱らせているとも言えます。 手足頭を使って取り組む体験が少なく、自分で「できた」と感じる機会は減っています。 少子化で、ルールを守ってみんなで楽しく遊ぶこと、喧嘩になった時の対処法など、友人関係のスキルを身に付ける機会も少なくなっています。

子どもたちが、なるべく心身ともに健やかに育ち、人の力を借り、自分でも困難を乗り越えながら、生きる喜び、幸せを感じることができるようになるために、大人にできることを考えたいと思います。

工夫その1

子どもが「困難を乗り越えようとする力(レジリエンス)」を高める働きかけの工夫

1.自己効力感を高める働きかけ

自己効力感は「自分が外界に働きかけをすると、何か変化を起こすことができる」と感じられることです。 この感覚が養われるためには、外界の「応答性」「随伴性」が大事です。 子どもが何か働きかけてきたら、その働きかけに気づいて「すぐに(随伴性)」「反応(応答性)」していくことが、まず大切です。 このことは、簡単なようでいて、うっかりすると見逃してしまいます。 いつも子どもに温かい「眼差し」を送って、いつでも反応できるようにしておくことが必要です。

2.自己コントロールの基盤としての身体感覚を受け止めやすい環境の提供

自分の感情をコントロールするには、まず自分の感情に気づくことが必要です。 また、そのためには、自分の体の中で起こっていることに気づく「身体感覚」を養うことが必要です。 そして、そのためには、怒られたり、急かされたりしないで、ゆったりと自分の体に気持ちを向けて、感じ取る体験が役に立ちます。

3.意欲を高める働きかけ

子どもたちが意欲的に何かに取り組むのは、取り組む課題が 「面白そう!」「やりがいがありそう!」「やればできそう!」「やってよかった!」と感じられる時だといわれています。 けれども、子どもたちに提供される課題は、子どもたちにとって「つまらなそう」「やりがいがなさそう」「やってもできない」「よかったと思えない」課題が多くなりやすいです。 課題が子どもたちにとって「意欲的」に取り組みやすいかどうか、今一度見直したいところです。

工夫その2

子どもが「困難な状況にある」ことを大人が気づき、乗り越える力を発揮できる環境を提供する工夫

子どもは心身未分化な状態にあるといわれています。 体の不調は身体症状として現れますが、心の不調も身体症状として現れることが多いです。 体の不調が見られるときは、体の病気をまず考えて小児科受診が大切ですが、体の病気が見つからないときは、子どもが自分の力では何ともできない、なにか抗しがたい状況にある可能性があります。 子どもたちが「何を言っても怒られない」「何を言っても大丈夫」と感じられる状況で、忙しそうな大人に遠慮することなく、本音の言える時間と場所を提供することができると、「悪口を言われている」「先輩にぱしりにされている」「学校に行くと暴力を受けるが、お父さんが休むことを許してくれない」……などSOSをキャッチすることができ、子どもたちは少し肩の荷がおり、困難に向かっていけるようになるかもしれません。

現代は、大人にとっても子どもにとっても困難の多い時代です。 何が正解かわからない中、あまり難しく考えず、「知識」に重点をおきすぎない、素朴で温かい、粘り強い支援を心がけたいと思います。