NITSニュース第178号 令和3年10月15日

外国人児童生徒等に対する日本語指導について

東京学芸大学教職大学院 教授 齋藤ひろみ

ある小学校の日本語教室で行われた国語科「固有種が教えてくれること」(国語5年 光村図書)の授業の1シーンです。


4枚の“絵地図を順に並べ”、日本がどのようにユーラシア大陸から分離したかを話し合い、北海道、本土、南西諸島に生息する“固有種の動物の写真を地図に添え”ます。 そして、教師が示す“語彙カードや話型”を利用しながら、どうして日本には固有種が多いのか、“考えを声に出してから文に”していきます。

そして、できあがったのが次の文とその後の会話。
「日本は長い時間をかけて大陸から切り離されて生物が行き来できなくなったので、固有種が多いです」

先生:すごい!ふたりが考えたこと、筆者と同じだよ。ほら(“リライトした本文を示す”)。
子どもたち:ほんとだ!誰?筆者は誰?
先生:今井忠明さん、“『ざんねんな生きもの事典』”の人。紹介したよね(“事典を示す”)。
子どもたち:あーっ。知ってる。


この授業に参加した子ども2人は滞日期間が3~4年です。 日常会話等で日本語に困ることはほぼありませんが、教科学習では日本語の力が課題になっています。 そこで、日本語指導が必要な外国人児童生徒のために文部科学省が開発した「JSLカリキュラム 」(JSLは、Japanese as a Second Language(第二言語としての日本語)の略)の考え方に基づいた授業が行われました。 内容(教科等)と日本語の統合学習です。 先生は「図表をもとに内容を想像し、文章から情報を読み取り、自国や友人の国の固有種に関心をもって内容を楽しめる」ことをめあてに、この授業に取り組みました。 子どもたちの発言からは学習への達成感と、『ざんねんな生きもの事典』の筆者への関心が読み取れます。 二重引用符(“”)で強調して示した支援のもと、子どもたちは事柄(日本の固有種と大陸からの列島分離)を考え、意味づけ、世界を広げてことばを学んでいます。

日本語指導は、外国人児童生徒等の学校・社会生活における適応やコミュニケーション、学習参加や認知面の発達、そして、アイデンティティや自己実現を支えることばの教育として重要な役割を担っています。 日本語の知識・技能の教授を超え、この実践例のように知的好奇心を刺激し、情報を関連づけ、想像し、意味世界を広げます。 また、児童生徒の母語・母文化を価値付け、将来のキャリアイメージを抱かせ社会参加を支援することも期待されています。

2021年10月4~6日の3日間、NITS・三重県教育委員会主催の「外国人児童生徒等への日本語指導指導者養成研修」(オンライン・同時双方向)が実施されました。 上述したような日本語指導の在り方を、指導者を指導する立場の皆さんに学んでもらうことがねらいとなっています。 研修は「外国人児童生徒等教育を担う教員の養成・研修モデルプログラム開発事業 」(公益社団法人日本語教育学会文部科学省委託事業)に基づいています。 カリキュラムの検討では、モデルプログラムに基づき、研修の各講義の関連性を明確に描いた上で、目指す資質・能力を設定し、内容を構成しました。 講義は、行政説明、外国人児童生徒等担当教員の資質・能力、多文化共生・学習権・市民権、受入れ・指導体制、児童生徒等の心理と学習の過程、日本語指導の方法と授業作り、児童生徒の年齢的発達と日本語指導小学校/中学校、研修成果の活用から成ります。 また、講師としても参加しましたが、講義毎に学びが重なり深まっている様子がオンラインの画面越しにも窺えました。 モデルプログラムを活用して研修を設計する活動では、受講者の皆さんが3日間の学びを客体化して捉えるとともに、教員としてのキャリアに、外国人児童生徒等教育の経験を位置づけてくださったようでした。 閉会時には、研修での学びを明日の実践に結び、子どもたちの成長と発達を後押ししていこうといった一体感がオンライン空間に醸し出されていました。 この学びの場の舞台裏には、講師からの思いきった提案や面倒な資料準備に応え、当日のオンライン上のトラブルに即座に対応くださったNITSと三重県教育委員会のスタッフの皆さんの力があります。

言語・文化的に少数派である児童生徒の場合、コロナ禍の閉塞的な状態の中では、社会との関わりを維持できない、学びの空間で孤立するという危険性はさらに高くなります。 結び目としての学校、つなぎ手としての先生方の存在は大きいものです。 この子どもたちの成長の営みを伴走くださる皆様、どうぞ健康にお過ごしください。