NITSニュース第175号 令和3年9月3日

「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン」について

株式会社社会安全研究所 代表取締役・所長 首藤由紀

学校において児童生徒等の安全を確保するためには、「危機管理マニュアル」を作成し、危機管理における各教職員の役割等を明確にするとともに、児童生徒等の安全を確保する体制を確立するために必要な事項について全教職員が共通に理解することが不可欠です。

すでに各学校では、学校保健安全法第29条の定めに基づき、「危険等発生時対処要領」(危機管理マニュアル)を作成しています。 しかし、「危機管理マニュアル」は、一度作成すればよいというものではなく、常に見直し・改善することが必要です。

このため文部科学省では、各学校において「危機管理マニュアル」の見直し・改善を行う際の視点・考え方、その他参考となる情報などの提供を目的として、「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン」をとりまとめ、本年6月に公表しました。

筆者は、本ガイドラインの作成に携わりましたので、ここでその概要をご紹介します。

【ガイドラインの構成・使い方】

本ガイドラインは、「チェックリスト編」「解説編」「サンプル編」の3編で構成されています。 「チェックリスト編」は、危機管理マニュアルに盛り込むべき事項や、その記載方法などについて、チェックリストの形式で示すとともに、解説編の該当ページも案内しています。 このチェックリストを使って、自校の危機管理マニュアルに必要な事項が記載されているか、記載方法は適切かなどについて評価してください。 その上で、十分ではない点が見つかった場合や、適切かどうかの判断が下せない場合には、詳細を解説編で確認してください。

「解説編」は、危機管理マニュアルに盛り込むべき事項、その記載方法などを、その背景になる考え方とともに解説しています。 各項目には、その骨子を簡潔に示す「記載の視点」を掲載していますので、まずそれを確認することで概略を把握することができます。 また、要所要所で「コラム」として、例えば、「避難確保計画とは?」「自治体の地域防災計画とは?」などという参考情報も記載していますので、参考にしていただければと思います。

「サンプル編」には、チェックリスト編や解説編に記載されている事項について、学校の危機管理マニュアルとして具現化した場合の記載例や様式例を示しています。 危機管理マニュアルは、各学校の実状に応じて様々な形が考えられますので、サンプル編の記載例を参考にしながらも、各学校独自の工夫を重ね、実効性のある使いやすいマニュアルとしてください。

【3段階の危機管理】

なお、本ガイドラインでは、危機管理を次の3段階に区分しています。

  1. 事前の危機管理:①事故・災害等の未然防止対策と、②事故・災害等の発生に備えた対策の両面で進めることが必要です。
  2. 発生時(初動)の危機管理:フロー図などの簡潔な形式で示すとともに、訓練・研修などを通じて教職員が習熟しておく必要があります。
  3. 事後の危機管理:発生直後から生じる様々な事態への対応、学校としての復旧・復興への対応、事故等の調査・検証を通じた再発防止対策の取組など、様々な対応を行う必要があります。

厳密に言えば、学校保健安全法で義務づけられているのは、このうち「発生時(初動)」の対応に関するマニュアルの作成です。 しかし、それだけでは学校における事故の未然防止はできませんし、いざという時に教職員が的確に対応するためには事前の研修・訓練も不可欠です。 また、事故・災害の発生後に、できるだけ速やかに学校現場を正常化して教育活動を再開することや、児童生徒等の心のケア、ご遺族・保護者対応に当たることも、教職員としての重要な役割と考えられます。 このような観点から、発生時(初動)だけでなく、事前・事後の危機管理についてもあらかじめ詳細に検討し、危機管理マニュアルに明記して教職員間で共通の認識としておくことが大切なのです。

ただし、危機管理マニュアルは、必ずしもこの3段階に分けて記載しなければならないということではありません。 事前・事後の危機管理について、安全点検計画や避難訓練計画、応急教育に係る計画などのように、別途、計画やマニュアル等を定めている場合は、その中で、本ガイドラインの内容が満たされているか、確認・見直しをしてください。

学校現場では、危機管理マニュアルの見直し・充実化が必要と感じつつも、なかなか時間が取れず、具体的な見直し作業に着手できないという場合が少なくないようです。 本ガイドラインでは、チェックリスト編・解説編・サンプル編を項目毎に対応付けることで、特定の項目についてのみ見直し・改善を行うこともできるように工夫してあります。 マニュアル全体の見直し・改善ではハードルが高すぎても、一番気になる部分や最も強化が必要と思われる部分など、できる部分から、今すぐにでも見直し・改善を始めていただければと思います。

本ガイドラインを用いることで、各学校の危機管理マニュアル等の見直し・改善が進み、実効性向上につながることを願っています。