NITSニュース第173号 令和3年8月6日

人間としての在り方生き方に関する教育の展開

文部科学省 教科調査官 飯塚秀彦

高等学校における道徳教育は、人間としての在り方生き方に関する教育として、校長の方針の下、道徳教育推進教師を中心に、全教師が協力して展開することとされています。

義務教育と異なり、「特別の教科 道徳」が教育課程上に置かれていない高等学校では、どのように道徳教育、人間としての在り方生き方に関する教育を展開したらよいのかと、途方に暮れる道徳教育推進教師の先生も少なくありません。 一方で、道徳教育推進教師の先生が、人間としての在り方生き方に関する教育として「こういうことをやってみよう」と先生方に提案しようとしても、「また、何か新しいことを始めるの」という反応が予想され、一歩をなかなか踏み出せないということもあるかもしれません。

では、どのように人間としての在り方生き方に関する教育を展開すればよいのでしょうか。

(1) 高等学校でも日々道徳教育をやっている⁉

高等学校には、「特別の教科 道徳」が置かれていないので、道徳教育を行っていないと思われている先生も少なくありませんが、本当でしょうか。 例えば、担任や部活動の顧問として、生徒に対して「人間として大切なこと」を生徒に伝えていませんか。

高等学校の道徳教育の目標は、小・中学校と同様に学習指導要領・総則に「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養う」と示されています。 先生方が、生徒を叱ったり、褒めたりすることは、その生徒の人間的な成長を願ってのことではないですか。 それは、まさに道徳教育に他なりません。 そうです。高等学校でも、個々の先生方は、それとは知らずに道徳教育を行っているのです。

(2) 個々の先生方の道徳教育をつなぐ

高等学校でも、個々の先生方が道徳教育を行っています。 しかし、問題はそれらが個々バラバラに行われているところにあります。 したがって、どのように先生方の道徳教育をつなぐかということが重要になってきます。

そこで、注目したいのが、校訓や学校教育目標です。 自校の校訓や学校教育目標を思い出してみましょう。 そこには、「人間として生きていく上で大切なこと」がたくさん含まれているはずです。 この校訓や学校教育目標に含まれる「人間として生きていく上で大切なこと」で、先生方の道徳教育をつないでみましょう。

例えば、校訓や学校教育目標に含まれる「人間として生きていく上で大切なこと」と関わる自身の指導や他の先生の指導を付せんに書き出し、分類します。 これまで意識していなかっただけで、多くの先生が共通して行っている指導があるはずです。 それらを、組織として意識化して行うことで、自校の道徳教育の第一歩としてみましょう。 その際、まず校長先生に率先して実践を行っていただくようお願いしてください。 例えば、行事等での校長あいさつでは、校訓や学校教育目標に含まれる「人間として生きていく上で大切なこと」に関する内容を取り上げてもらうことなどが考えられます。

私たち教職員は、生徒の人間的な成長を願って日々の教育活動を行っています。 それらを道徳教育としてつないでいくことが、高等学校における人間としての在り方生き方に関する教育の展開の第一歩です。