NITSニュース第171号 令和3年7月9日

学校ビジョンの構築

沖縄国際大学 准教授 照屋翔大

組織的対応や学校組織マネジメントのように、学校を組織として捉え動かしていくという発想は、最近よく耳にするようになりました。 しかし、それらの要となる「ビジョン」については、十分に理解されているでしょうか。

ビジョンとは何か、に対する定義は論者によって様々ですが、「将来に向けてこうありたいと願う姿(理想像)であり、組織成員間で共有される必要があるもの」という指摘は概ね共通しています。 つまり、学校ビジョンの構築とは、現在、学校にかかわっている人たちの思いを出発点にしながら、それらの人々に共有されたビジョン(共有ビジョン)を練り上げていくこと、と言い換えることができるでしょう。 そのため、ビジョンは、年度や年代を超えて変化することが少ない学校教育目標や校訓と同義ではありませんし、管理職や一部の教員で作成し「降ろすもの」でもありません。

ビジョンを要にした学校組織マネジメントを実現するためには、まず、ビジョンを練り上げていくプロセスになるべく多くの教職員を参画させる(声を取り入れる)ことが重要です。 PDCAというマネジメント・サイクルを例にとるならば、実践(D)に移る手前のPの過程において、ビジョンを設定したり見直したりするために多くの教職員が主体的にかかわる時間と機会を創出したいものです。 いかに優れたビジョンであっても、その設定過程に主体的にかかわったという手応えがなければ、それは、与えられたビジョン、受け身のビジョンに留まってしまいがちです。 それでは、ビジョンを要にした学校組織のマネジメントは十分に駆動しなくなってしまいます。

先にも述べたように、ビジョンとは、将来に向けた願望や理想像を見える化したものです。 そのため、本来的には、組織成員がワクワクし前向きに取り組みたくなるような性質を抱えているはずなのです。 具体例を一つ挙げます。 日本を代表する企業のひとつであるトヨタには「一代一業」という家訓があり、初代から順に、自動織機、自動車、住宅、ソフトウェアを柱とした事業に取り組んできました。 最近、街づくり事業を展開したことは記憶に新しいと思います。 これらの事業はどれも、その時代の少し先をいく将来像・理想像を表現するものであり、私たちをワクワクさせる内容に富んでいます。 まさに「ビジョン」と呼ぶべきものです。 「一代一業」という時代を超えて受け継がれていく家訓を、各世代が時代の要請や先見の明を持って明確な「ビジョン」へと落とし込み、具体的な事業として展開していく。 これが企業としての成長を後押しし、今や世界的企業にまで発展した秘訣ではないでしょうか。

さて、このような家訓と事業の関係は、学校における校訓・学校教育目標とビジョンの関係になぞらえることができるように思います。 校訓や各種法規等に基づいて設定される学校教育目標を基に、具体的な中長期的見通しとしてビジョンを掲げる。 その進捗を確認するために、単年度目標と目標達成に至る手立ておよび評価の内容・方法を確定させる。 学校ビジョンの構築という組織的取組は、ビジョンを掲げて完了するものではなく、学校組織マネジメント全体の総点検として考えることが肝要なのです。 勤務校のビジョンそしてマネジメントは、このように連動しているだろうか。 夏休みの期間を活用し、点検・見直しを図ってみてはいかがでしょうか。