NITSニュース第141号 令和2年9月4日

学校組織マネジメントの実践に向けて

兵庫教育大学大学院 教授 浅野良一

今回のメールマガジンでは、学校の改善・改革の参考になる組織活性化のキーワードを紹介します。

1 理論と実践の往還

一般的に理論は、「①複雑な現実の世界を単純化することが可能である、②得られた知識を蓄積する上で有効な思考上の枠組みとなる、③感覚的な結論を回避して論理的な説明を行うことが可能である、④初心者にとっても理論が確立されていれば学習しやすい等の利点を持っている」などの特徴があるとされています。

理論は実践のための基盤となるものですが、理論だけでは、実践につながりにくいようです。 そこで、理論と実践の往還による「定石」を知ることが必要になります。 学校組織マネジメント指導者養成研修は、この「定石」を学習する機会でないかと思います。

2 組織活性化の「定石」のキーワード

(1) 安定の不安定

NECの元小林社長の言葉で、「一見安定している組織は革新が起こりにくく、ぬるま湯状態に安住している間に、ビジネスチャンスを失ったり、業績の悪化を招いたりすることがある」というものがあります。 いわゆる「温泉学校」は、学校の改善・改革が進みにくいことを示しています。

この状態を脱するために、各種の組織変革理論では、組織内部の危機感の醸成をあげており、そのきっかけは「外部からのプレッシャー」「外の風」だと指摘しています。

つまり、学校評価や全国学力・学習状況調査の結果、地域や保護者などからの声、高校では、募集定員の推移などを外の風として、学校内に不安定状態を意図的に作り出すことが必要なのです。

(2) ミドルリーダーが起爆剤

しかし、危機感の醸成だけでは、一気に組織改善・改革につながりません。 日本の組織変革理論は、その実現の第一歩が「ミドルの小集団による戦略的突出」だとしています。

それは、学校のミドルリーダーが音頭を取って、学年や教科・分掌、あるいは若手教職員集団といったチームで、学校の重点事項を実現する徹底した取り組みを行うことです。 また、その活動による「目で見える成果や変化」が、校内の他の小集団に影響し、その結果、学校の他の教職員全体が巻き込まれて変化します。

これは、集団力学では、「少数のイノベーターが、一貫した態度と行動を保持することで、多数者側が影響を受け、態度を変容する」こととされ、マイノリティ・インフルエンスと呼ばれています。

(3) 燃えるものから燃やす

誰が改善・改革の起爆剤となるミドルリーダーとしてふさわしいのでしょうか。 学校改善・改革に成功した校長先生からお話を聞くと、「ベテランではなく若手を中心として『燃えるものから燃やす』」のだといいます。 そして「ベテランを類焼させる」ことで、全体の変化につなげるのです。

(4) クォーター・マネジメント

改善・改革のきっかけは少人数でも、そのうち賛同者が増え、いつのまにかマイノリティからメジャーになります。 経験的に、3対4対3(サシミ)とか、2対6対2(パレートの法則)と言われています。 また、三菱総合研究所「クォーター・マネジメント(講談社)」によると、25%の人が動きを変えると全体が変わるとしています。

このように、学校を改善・改革するには、ミドルリーダー(若手のキーパーソン)を中心としたいわゆる「ミドル・アップ・ダウンマネジメント」が有効なのではないでしょうか。