アクティブ・ラーニング授業実践事例
学校名:岡山県立倉敷青陵高等学校
教科等:2年国語科(現代文B)(平成29年7月)
単元名:文学は何のためにあるのか?
文学の価値について考察することを通して、単元を通した自己の変容の実感につなげたい
自分と結び付ける
互いの考えを比較する
自分の考えを形成する
実践の背景
- 実践校は創立から100年を超える歴史を持つ伝統校であり、全校生徒約960名の全日制普通科の高等学校です。
- 目指す生徒像として「新時代を拓く心豊かでたくましい青陵生」を掲げ、「自主」「責任」「挑戦」を旨に心身を磨く、たくましくしなやかな生徒の育成に当たっています。
授業改善のアプローチ
- 活動に対する反応が良く、授業に臨む態度も積極的であるため、生徒の主体的な解釈の交流を可能な限り授業の中心に置くことで、より学びを深めていくことを目指しました。
- 「水かまきり」は、登場人物が河原を散歩する場面を描いた短編小説であり、ストーリーが捉えやすいため、表現の工夫を含めた文学性全体について思考することに適切な教材であると考えました。さらに、文学の価値についてより重層的に考察するために、評論「文学の仕事」を併せて扱うように設定しました。
- 思考の流れに沿って自分の意見を整理するための「イントロダクションシート」「シンクシート」を用いることで、前後の比較を通して自己の思考の変遷について可視化を図るとともに、他者との意見の交流を容易にし、積極的かつ深淵な考察につなげることを目指しました。
- 与えられた教材として文学に接するというような受容的な姿勢ではなく、教材の解釈を通して自分にとっての文学の価値について考察することを通して、主体的に文学を価値づけようとする姿勢を養うことに指導の中心を置いています。
単元づくりのポイント
目標
- 自分にとっての文学の価値について考察し、主体的に文学を価値づけようとする。
【関心・意欲・態度】 - 作者の意図や表現の工夫の観点から小説を味わうことを通して、人間にとって文学がどのような価値を持つのかについて考察することができる。
【読む能力】 - 語句の意味、意図を的確に理解した上で、「象徴」や「回想」、「オノマトペ」といった文学的な表現の特色をとらえることができる。
【知識・理解】
展開
文学は何のためにあるのか?(全4時間)
- 第一次
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- 1
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文学の価値について考察するという課題への見通しを持つ。
「水かまきり」を読み、語り手の意図や表現の工夫についてグループで考察する。
- 2
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前時の考察をまとめた記述を、他のグループで相互に読み合い、考察を深める。
文学の価値について考察し文章にまとめる。
- 第二次
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- 1
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「文学の仕事」を読み筆者の主張についてグループで話し合う。
- 2
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前次第2時の「文学の価値」について各自のまとめを練り直す。(本時)
「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善
本時のねらい
- 自分にとっての文学の価値について考察し、主体的に文学を価値づけようとしている。
【関心・意欲・態度】
授業場面より
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①前時の思考を振り返る
導入では、「文学の価値について『文学の仕事』を読むことで整理した内容に、第1次の『水かまきり』の小説が当てはまるか」について、前時の終末に各自が思考した内容を振り返ります。
生徒はシンクシートをもとに振り返りながら、各自の考えを発表していきます。その時、授業者は生徒に、他者の発表を聞いて、各自のシンクシートに新たな気付きや思いがあれば、色の違う筆記用具を用いて追記するよう伝えます。
活動中、生徒は、前時までにまとめた「文学の価値」について自分の考えと比較しながら、記述を追加していきました。 -
②グループ交流で考えを練り上げる
グループで「文学の価値」についての個人の思考を交流する場面です。
教師は、この交流で次の3つのステップを提示します。
①各自の意見を伝え合う。
②他グループに紹介したい意見を選ぶ。
③その意見をより高めるためにさらに吟味する。
生徒は、この3つのステップに沿い、考えを伝え合います。③の吟味では、グループ全員の意見を何度も確認しながら、補足すべき考えは何か等について意見を出し合いました。
3つのステップが提示されたことで、一人の考えを基に、代わる代わる出された意見を取り入れ、まとめ直すことで、その考えをよりよいものにしていくことができました。 -
③グループ発表
グループごとに練り上げた考えを発表する場面です。「例えば、『水かまきり』だったらケン坊みたいな個人を通して、その後ろにある自分とかを含めた人間とか社会全体のあるべき姿や理想の人生を模索しているのが文学で、私たちがそれを読んだ時に、新しい考え方や価値観を獲得して、人間らしく成長して豊かに生きていくことが出来るから、文学は必要不可欠だと思う。」や「一人の人生で経験できることは有限であるから、文学を読んで様々な感動を得たり思いを巡らせたりして、未知の世界の新しい考え方に巡らせたりして他者と共有したりして人生経験を豊かにしたりする。」といった意見の交流がありました。
授業者は途中、発表の内容をメモをしている生徒の姿を捉え評価することで、メモを促したり、発表を聞いて自分の考えを整理する時間を取ったりしました。生徒は、次々と自分にはない意見を書き加えていきます。これにより、一人一人の思考が更に広がり深まっていきました。 -
④単元全体の振り返り
授業の終末です。本時は単元の終末でもあるので単元全体を振り返る活動を取り入れます。
まず単元の導入時「イントロダクションシート」に書いた「これまでの人生で、文学はあなたにとってどんな存在でしたか?」という問いに対する各自の記述を改めて読み返します。数時間前に自分が書いた文章が、あまりにも一面的で稚拙な表現であったことに、教室の中には思わず笑いが溢れました。本単元の学習によって、個人の主観的で浅い考えが、グループやクラス全体での交流を通して、文学の価値について深く考えたものへと変容したことに気付いた瞬間です。授業者は、すかさず「単元当初の意見」と「自分で考えた意見」、「交流で更に感じた意見」とを比べ、「自分の変容について振り返る」ように伝えました。
ある生徒は、「今まで、他者の追体験をすることを、日常とは切り離した現実逃避として考えていたが、私たちの人生に深く根幹から関わっていることに気付いたので、文学と自分の距離が近づいたと思う。」と書いていました。自己の変容を実感しながら、文学の価値を深く考えることにつながったといえます。
報告者:研修協力員 山田