NITSニュース第243号 令和7年4月22日
学びを支える
独立行政法人教職員支援機構 理事長 荒瀬克己
2024年12月、文部科学大臣から中央教育審議会に二つの諮問が行われました。「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」と「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策について」です。学習指導要領の改訂と児童生徒の学びを支える教職員の在り方が、並行して議論されていきます。
ここでは、2025年2月25日に開催された教員養成部会(第147回)での発言の一部をお伝えします。
この日は「社会の変化や学習指導要領の改訂等も見据えた教職課程の在り方」についての検討が行われ、教員養成フラッグシップ大学である兵庫教育大学と東京学芸大学の学生たちと、立命館大学大学院教職研究科の森田真樹教授からの発表がありました。森田先生には、NITSが教職員研修の在り方を考える「地域センター」の事業でもお世話になっています。
学生たちからの発表で興味深かったのは、次のような意見です。わたしの印象に基づく要約ですので、詳細は文科省ホームぺージで議事録をお読みください。
- ○AIなど様々な技術が進歩する中、人が学ぶ意義を再考することは、学びを提供する教員を目指す上では必要不可欠だ。
- ○価値観が多様化している社会では、単に知識を多く備えていることが学力ではなくなってきている現状がある。そういった変容を捉えて、他者とともに学ぶ授業の作り方や、ファシリテーターとしての教員の役割についても学びたい。
- ○学び続ける教員になりたい。ソクラテスの「無知の知」という言葉を借りて考えると、自分はまだまだ未熟で知らないことがたくさんある。学びに終わりはないということを忘れず、アンテナを張り続け、様々な人と出会うことで引き出しを増やしていけたらと思っている。また、そこで得た学びを生かすためにも、今がベストだと思うのではなく、変化を受け入れる姿勢も持ちたいと思っている。
- ○教員を目指す学生として教育行政に切望するのは、現場でも学び続けられる環境と学んだことを生かせる環境の整備。近年、教員の多忙さや教員不足などが学生にとって不安につながっており、教員になりたいという気持ちだけではどうにもできない現状がある。
- ○大学生は学びたいと思っているけれども、学び方が分からないという実態もある。
続いて行われた森田先生の問題提起では、特に次の点に共感しました。
- ○養成と研修、学士課程と大学院の役割を再度検討し、学士課程の教職課程は、免許を取得して教壇に立つスタート地点を保証するものに精選すべきではないか。
- ○現在の学校での『即戦力』の育成に偏ることなく、予測不能な将来の課題に対応できる力も育成すべきではないか。
- ○学習観の転換、授業観の転換、研修観の転換が目指される中にあって、思い切った「養成観の転換」を図ることが必要ではないか。
学生たちは、 AIなどの技術が進歩し、価値観が多様化する社会の中で、他者とともに学ぶ力や変化を受け入れる姿勢を重視しながら、人が学ぶ意義を再考することが重要で、自身の未熟さを認識し、学び続ける教員としての姿勢を持つことが欠かせないと考えているようです。
森田先生は、そのような学生たちが学ぶ学士課程の教職課程は、免許取得を通して教壇に立つスタート地点を保証するものとして精選すべきで、「即戦力」の育成だけでなく、予測不能な将来の課題への対応力を養成する必要があることから、学習観、授業観、研修観に加えて、養成観の転換を大胆に図ることが求められるとお考えなのでしょう。
また、学びたいという意志がある一方で、学び方が分からない大学生に対する支援も不可欠です。探究する力が養える質の高い取組が求められます。ただし、予測不能な将来の課題への対応力にもつながる探究力は、教壇に立つスタート地点を保証するだけでなく、学び続けていくうえでも必要な力です。
そもそも最初から一人前の人は滅多にいません。それは教職員も同じです。学ぶことで人は成長します。教職員にも、学ぶことのできる時間と場が調えられることが不可欠です。学生たちも、現場で学び続けられる環境の整備を願っています。成長を見守る、伴走するといった周囲の理解と愛情が必要なのは、子どもだけではありません。この点においても、子どもの学びと教職員の学びは相似形です。