NITSニュース第221号 令和5年10月6日

教育の情報化の今 〜コミュニケーションの最大化による手順の改善〜

東京学芸大学 教授 高橋純

子供も、先生も、一人一人が端末を持つようになった。最新の実践では、授業も、校務も、教員研修も、一人一台端末の活用によって、従来と全く別の形になってきた。子供も先生も「あー、勉強って楽しいな」「もっと伸びたいな」といった心地よい疲労感を感じる授業や研修である。一人一人が主語、一人一人の頭がフル回転である。校務も無駄で無意味な手順が減ってきている。ICTのツールは、GIGAスクールの標準仕様の通りで、全て同じである。だから一つの操作法が様々に応用できて楽しいし、深まって心地よいのである。単純な操作法の組合せで、分野を問わず、学びや業務が深まるので、得した気分にもなる。コンピテンシー・ベースの学びとはこのことか、といった実感も得られやすい。ようは関係者間のコミュニケーションが最大化し、それにより様々な手順が変わってきたのである。

授業も、校務も、教員研修も、一人一人が常にアウトプットし、その多様な知がリアルタイムに共有され、それらにより一人一人の知が更新されて、それらがまたアウトプットされていく。これらが、紙や鉛筆からみれば、想像を絶する速さで繰り返されていく。学級や学校のリアルな人間関係が良好であれば、一層、驚くべき創意工夫が生まれる。長期的で大きな目標は変わらないが、短期的な目標は次々と変わる。より一層、高速に長期的な目標に近づく。最終成果のみならず、途中経過やプロセスも含めて、一瞬で共有され、また新たな創意工夫を生む。これが実に楽しい。

第三世代。あえてこう記してみるが、ICTによって余計に仕事が増えたと感じる場合は、おおよそ第一世代や第二世代の活用法である。ICT活用を批判する様々な論説も、ほぼ古い活用法に基づいている。ICTに詳しい人であっても、ただ技術に詳しいだけであって、活用法は古いままということは多分にある。ICT活用観のアップデートが重要となる。例えば「フォルダ侍」のようにフォルダの整理にこだわるのは、第一世代の考え方である。第三世代から見れば、奇々怪々な従来型のルールを設定されていると感じるときもある。せっかくGIGAスクール構想で整った最新のICT環境を、あえて第一世代や第二世代でしか活用できないように制限している自治体も多い。いかにコミュニケーションを不便にするかに注力している。

現在は、あらゆる業務がICTを活用して進む。したがって、与えられたICT環境を超えた成果を挙げるのが困難とも言える状況である。だからこそ、ICT環境が、心地よく、一人一人の創意工夫を誘発する仕組みになっていなくてはならない。なぜならば、従来の紙ベースの手順から、クラウドベースのコミュニケーションによって実現可能になったより本質的な手順に変えてこそ、成果が上がる。こうした舳先が変わるタイミングでは、一人一人の創意工夫が不可欠だからである。さらに今後、生成AIなどを用いた第四世代への変化があるだろう。しかし、第一、第二、と順序よく上がっていく必要はない。これらは単なる過去の活用方法の分類であり、目指すべき目標ではない。常に最新の「考え方」で、本質に迫るためのICT活用が重要だ。関係者のセンスが問われる。

文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務DXについて~教職員の働きやすさと教育活動の一層の高度化を目指して~」(令和5年3月)の報告書では、「GIGA」「校務DX」と銘打っているとおり、校務に限らず授業も含め、学校関係者間のコミュニケーションを最大化し、より本質的な手順に変えていくことが前提である。また、文部科学省「リーディングDXスクール」、NITS「学校教育の情報化指導者養成研修」の教員研修では、常に受講者がチャット等でアウトプットし続けることで、コミュニケーションをより充実させ、対面やブレイクアウトルームでの議論のみを超えた成果を挙げつつある。

目の前の子供たちは、我々の世代よりも高い資質・能力が求められている。ベテラン教員が初任の時よりも、今の初任者の方が高い資質・能力を求められているのと同様である。校務も、年々、求められる質も量も向上している。したがって、従来と同じ方法であれば、人手や時間が一層かかることになる。ICTの力も借りた新しいチャレンジが求められているといえよう。

改めて、現時点でのポイントは、

  1. 授業も、校務も、研修も、同じツールを用いたICT活用を行う
  2. 最新のクラウド技術で関係者間のコミュニケーションの最大化を図る
  3. より本質的な学習や業務の手順に改善する

であろう。