NITSニュース第187号 令和4年2月25日

『探究的な学習』の在り方を問い直す

島根大学教育学部 教授 深見俊崇

2017年の小・中学校学習指導要領、そして2018年の高等学校学習指導要領改訂によって、「探究的な学習」がこれまで以上にクローズアップされるようになってきました。探究的な学習については、2008年改訂の小・中学校『学習指導要領解説 総合的な学習の時間編』に、「問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく一連の学習活動」であると定義され、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」がスパイラルに展開していく学習過程が明示されました。
2017年・18年の学習指導要領の改訂では、「主体的・対話的で深い学び」がテーマとして掲げられたことで、それがより必要感をもって捉えられたと言えます。特に高等学校においては、「総合的な探究の時間」に変更されることに加え、「古典探究」「地理探究」といった科目にも「探究」が登場し、教育課程に大きな変化をもたらしつつあると言えます。

探究的な学習は、近年クローズアップされるようになりましたが、デューイ・スクールの実践やキルパトリックのプロジェクト・メソッドといった100年以上前の新教育の実践から継承されてきたものであります。日本においても、大正自由教育運動や戦後新教育のコア・カリキュラム運動等に影響を与えてきました。

世界的に見ると、1990年代から2000年代にかけて「真正の評価(authentic assessment)」や「プロジェクト・ベース学習」等の研究・実践が劇的に進展する中で、探究的な学習は確固たる市民権を得ています。拙編訳『パワフル・ラーニング』(リンダ・ダーリング-ハモンド編著 北大路書房 2017年)は、それらの結晶とも言えるものです。
特に重要となるのは、教科書等で各教科等の内容を学習するのではなく、プロジェクトや仕事等を通じて学習することです。

例えば、プロジェクトでの学習例として、ウォータービル小学校で取り組まれた地域の固有種であるトカゲを追究する実践があります。専門書を読み、レポートを書くこと(国語)、児童と地域住民が協働してデータを収集したものを集計・分析(算数)といった総合的な学習としてのプロジェクトだったのです。また、仕事を通じての学習例として、ビルド・サンフランシスコ研究所がコーディネートするプログラムが挙げられます。高校生たちが午後から建築事務所に赴き、建築家と共に仕事をする中で数学を学ぶものです。いずれの例も「真正」の舞台で、「真正の学習」を行っていることが分かります。
これらのような特徴的な実践に限らず、国語や算数・数学といった共通に学ぶものを除いては、時間割の編成自体がプロジェクト中心になっている学校も諸外国では増えています。

日本では、時間割に基づく教科書ベースで進められる指導がまだまだ根強いため、一足飛びにそのような学習には移行しないかもしれません。しかし、近年、探究的な学習やプロジェクト・ベース学習を目玉にするような実践や学校も増えてきました。だからこそ、重要となるのは、それらを通じて各教科等の学習内容がいかに習得できたかを問うことです。 諸外国においては、プロジェクトの成果ももちろん重要ですが、各教科等で定められたスタンダード(習得すべき学習内容や到達すべき行動目標を示したもの)が押さえられているかを教師たちは必ず確認しています。
各教科等/総合的な学習(探究)の時間という二元思考ではなく、本質的に「教科等横断的な学習」となるように、各教科等の学習を埋め込むようにコーディネートしていく必要があるのです。