NITSニュース第169号 令和3年6月11日

性被害に係る児童生徒への指導と対応

武庫川女子大学 准教授 大岡由佳

学校内で、子ども同士の性被害・加害の出来事が発覚したことを想像してみてください。 しかも、SNSで多くの子ども同士が知っているとします。 職員室では、たちまち混乱となります。

特定された被害児童(生徒)の心身症状の確認が必要になります。 他の被害者がいないかも調べないといけません。 被害児童(生徒)の保護者にも説明をしなければなりません。 保護者への全体説明会も急遽開催する必要があるかもしれません。 学校内で起こった出来事なら、再犯防止に向けて学校を隈なく巡回する必要も出てくるかもしれません。 性被害・加害の対応は、全国的に、教員側もどう指導にあたったらよいのか、戸惑うことが多い事案の一つとなっています。

実際、子どもが性犯罪被害に巻き込まれる機会が増加しています。 児童ポルノ事件等の検挙件数も年々増加しています。 「#ハッシュMe Too #ハッシュWith you」「フラワーデモ」といった性暴力に抗議する社会運動の後押しもあり、令和2年に内閣府から「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」が出されました。

文部科学省では、

  1. 性犯罪・性被害の予防に関する教育・指導の充実(性に関する指導の充実、犯罪被害に遭わないための安全教育、情報モラル教育に関する指導の充実)
  2. 相談体制の充実(被害児童の早期発見・支援のためのスクールカウンセラー等の配置、SNS等を活用した相談事業)
  3. 関係機関・地域との連携による啓発(関係機関との連携による啓発の推進、地域における啓発活動)
  4. 教職員の資質向上(教職員を対象とした研修)
  5. の方針を掲げています。

    では、はじめに述べた事案が発生したとき、どのように対応したらよかったのでしょうか? 大切なことは、被害児童(生徒)と、性問題行動を起こす児童(生徒)のいずれにも適切な対応を行うことです。

    被害児童(生徒)への対応としては、被害者が呈することのあるトラウマ反応を理解しておくことです。 事件発覚後に症状が出てきて学校に行けなくなることもあります。 何よりも2次被害(被害者についての無理解や偏見などが原因となって、被害者がその心身に傷を受けること)を減らせるように、関係者がチームで関わっていく必要があります。 学校だけで抱え込んでしまうことなく、外部の専門家の助けもあった方がいいでしょう。

    性問題行動を起こす児童(生徒)に対してはどうでしょうか? 毅然とした対応が求められがちですが、受容的な態度も必要です。 それらの子どもたちには、性問題行動が起こる“背景”があるのです。 私たちは、悪いことをした立場の子どもに、“どうして……?(Why)”と聞きがちです。 しかし、それは子どもにとって、責める言葉であり委縮させるだけです。 できるだけ、5W1H(Why, What, Who, When, Where, How)のWhy以外の言い方で尋ね、本人の言葉で語ってもらうことが大切です。 その性加害の要因を考え、予防していくための定期的な面談も必要になります。 市販の性加害用のワークブックが参考になるかもしれません。

    なお、子どもたちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないよう、「生命(いのち)の安全教育」を推進する教材が文部科学省から出ています。 未然防止のご参考としてご覧ください。