NITSニュース第168号 令和3年5月28日

『カリキュラム・マネジメント』の理論と実践の理解

横浜国立大学・教職大学院 教授 倉本哲男

1. 理論的見地からの「カリキュラム・マネジメント」論

学習指導要領が述べる「カリキュラム・マネジメント」には、周知のように3点があります。 実は、その理論的背景は極めて広くて深いものとなっています。 紙面の都合もあり、それらを簡潔にご紹介します。

まず、国際的な理論研究では、①「カリキュラム開発論」(Curriculum Development:ある教育思想・ビジョンを具現化する目標・内容・方法・評価論で構成。)、 ②「カリキュラムデザイン論」(Curriculum Design:広義には学習者中心のカリキュラム論。カリキュラム開発論の対概念の場合あり。)、 ③「カリキュラムマネジメント論」(Curriculum Management:カリキュラムを開発、又はデザインし、それらを組織的にマネジメントする統合的な概念。)に大別できます。

次に国内の理論研究では、①「教育課程経営論」(高野桂一らによる学校経営論を教育課程の視点から焦点化。)、②「カリキュラムマネジメント論」(高野の弟子の中留武昭が簡素化・具現化した理論。その後、中留の弟子たちが独自の視点で国内・海外に展開。)、③「カリキュラム・マネジメント論」(学習指導要領には「・」)と整理できるでしょう。

参考までに、現在では国際的な専門学会(教職大学院の国際学会バージョン)において、Curriculum ManagementはLesson Study(授業研究・校内研修による学校改善論)とセットとなり、その「理論と実践の融合」の在り方が論じられています。

2. 実践的見地からの「カリキュラム・マネジメント」論

実践的な見地から「カリキュラム・マネジメント」を理解するうえで、1・2・3次円がお勧めです。 学校マネジメントとは、1次円(児童生徒の育成など)、2次円(教職員の育成・組織改善など)、3次円(保護者・学校外組織との連携など)を意味します。 その1・2・3次円の学校改善のために「学校カリキュラム(教育課程)をつくり、(ヤング・ミドル・トップ)リーダーが組織的に動かしていくこと」が「カリキュラム・マネジメント」です。

例えば、“「外国につながりのある生徒」が多い学校が、「共生的な生徒指導」のカリキュラム・マネジメントを進めた事例”では、1次円(外国系生徒の個人カルテ、授業後や長期休業中の学習サポート、国際委員会の新設と委員会活動の充実、日本語スピーチコンテスト、国際月間開催など)、2次円(外国系生徒教育部の新設、国際通信・職員用、外国系生徒の教育に関する研修充実など)、3次円(外国系生徒保護者へのメール配信、外国系生徒支援ボランティア、外国系生徒と保護者のための進路相談会など)となっています。

如何でしょうか? 「カリキュラム・マネジメント」の理論と実践の簡単な整理を試みました。 もしも、読者の皆様にとって、ほんの少しでもお役に立つものであれば幸甚です。