NITSニュース第164号 令和3年2月26日

小学校外国語教育で教師に求められる指導力とその向上に向けて

鳴門教育大学 准教授 佐藤美智子

小学校では令和2年度より新学習指導要領が全面実施となり、新しい外国語教育がスタートしました。 小学校で授業を拝見すると、着実に実践が進められていることが実感できます。 ただその一方で、本学に寄せられる声からは、教科化に伴う指導や評価に対する先生方の戸惑いもうかがえます。 文部科学省の令和3年度概算要求「小・中・高等学校を通じた英語教育強化事業」にも、「新しい英語教育が始まった小学校において質の高い指導体制の構築」が喫緊の課題に挙げられ、専門人材育成への予算が組み込まれています。 こうした背景を踏まえ、本稿では、小学校外国語のよりよい授業を創造していくために「教師に求められる指導力とその向上の方策」について考えてみたいと思います。

1. 求められる指導力について

ここでは、筆者が必要と考える「力」を挙げます。

①小学校外国語教育についての理解

学習指導要領は羅針盤に例えられ、それを理解しておくことで「何のために」「どこへ向かうのか」が明確となります。 つまり、授業づくりには、学習指導要領の基本理念や目標等についての正しい理解が大前提となります。 併せて、授業で扱う歌やチャンツ等の活動に関する知識も必要です。

②授業設計(デザイン)力

授業を設計する力です。 学習指導要領や年間指導計画、児童の実態に沿って単元目標を決め、単元や毎時間の授業を設計します。 この作業には、テキスト等をアレンジする発想力や活動の選択・構成力、教材開発力など総合的な力が求められます。

③授業運営(マネジメント)力

授業の中で教師が「どう動くか」、換言すると「演技者」としての役割です。 いくら素晴らしい設計図があったとしても、具体化する「演技者」としての力が備わっていなければそれは生かされません。 児童の知的好奇心や意欲を喚起し児童が主体となる授業をつくるには、教師の表情や間、テンポ、声の抑揚等が非常に重要となります。

④評価観・評価力

「値踏み」や「序列」から「支援のための評価」へ。 その意識変革が、今、改めて求められています。 「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」(平成31年)が示した通り、評価を学習改善や指導改善につなげていくことが重要であり、新しい評価の3観点についての理解も欠かせません。

⑤英語運用能力

外国語教育の目標では、「言語活動」が資質・能力を育成するためのキーワードとなっており、高学年には帯活動として行うSmall Talkが導入されています。 教科化に伴い、指示や質問だけでなく、英語を用いて考えや気持ちを伝え合う力が教師にも求められます。

上記に加え、子供との信頼関係を構築し、「支持的風土」のある温かい学級集団をつくる学級経営(生徒指導)力を挙げたいと思います。 特に「互いの考えや気持ちを伝え合う」活動が中心となる外国語の授業においては、欠かせない力です。

2. 指導力向上に向けて

指導力と言ってもその内容は実に多様であり、そのいずれかの力だけが優れていてもよい授業は実現しません。 最近ではオンライン型の研修が加わり、校内研修以外にも、種々の研修の場が用意されています。 自身のニーズに従い、こうした機会を活用し指導力を向上させていくことが重要です。 最後に、筆者自身の経験を踏まえ、研修を企画、受講する上で有効と思われる方策を3つご紹介します。

(1) 学びつづける姿勢と仲間をもつ

研修で受けた気付きや学び、感動等は、一時的なものになりがちで時間とともに薄らいでいきます。 そこで、定期的に学ぶ機会を持つこと、加えて、研修会には仲間と行くことをおすすめします。 なぜなら「自分のもつ力以上のことには気付けない」からであり、学んだことを仲間と共有することで、新たな視点に気付けたりします。

(2) チームでつくる

リーダーとなる教員を中心としたチームで、授業を創り上げる研修です。 指導案や細案、教材等の作成に始まり、模擬授業を通して板書や動き、子供への声かけ等も検討します。 最近、筆者も加わった実践の中で、若い先生が、一単元の授業を通して見違えるように成長された姿を目の当たりにしました。 経験豊富な先輩教員から外国語の授業だけでなく、教師としての在り方も学ぶことができ、参加者皆の指導力向上につながり「学び合う組織」の醸成にも有効です。

(3) 外部の諸機関や専門家等とのネットワークの構築

本学は県内4地域と連携して研究を進めています。 教師が多忙化する中、取組を校内だけに留めず、外部の諸機関や専門家等とのネットワークを構築し、研修を進めていくことも有効な方策ではないでしょうか。

新しい外国語教育は始まったばかりです。 多くの不安や迷いもありますが、それを多くの仲間と共有し、つながりながら、子供が主体となり深い学びが生まれるよりよい授業を目指して、焦らず前を向いて今できることから進めていきましょう。