NITSニュース第163号 令和3年2月19日

幼児教育における『遊びを通して学ぶ』とは

名古屋学芸大学 教授 津金美智子

幼児期の教育は、遊びを通して総合的に指導することを基本としています。 そのことを実際の幼児の姿(4歳児)から考えてみましょう。

幼児が教師も含め9人で鬼遊びをしようとしていた時、鬼と逃げる側が互いの人数を数え出しました。 鬼が5人、逃げる側が4人。
逃げる側が「こっちが少ない。(鬼の方から)誰か入ってよ」と言うと、鬼の側から一人が入ります。 再度、数えると、鬼が4人、逃げる側が5人。 今度は鬼の方から「こっちが少ない。(逃げる側から)誰か入ってよ」と言います。 こうしたことを何度も繰り返していたところ、一人の幼児が言い放ちました。 “「交代しても交代しても、おんなじにはならないよぉ」”
そこで、幼児たちは考えました。 「だれか、呼んでこよう」 そして、一人の幼児に入ってもらうと、「5人と5人」「ぴったり。ぴったり」と飛び跳ねて歓声をあげました。

ここで注目すべきは、幼児が同じにならないもどかしさや不思議さをもって数を捉えていく感覚です。 同じ人数にしたいのに、なかなか同じにならないもどかしさが「交代しても交代しても」の言葉に表れています。 鬼と逃げる側とが、その差の一人を巡って入れ替えを繰り返す中で、「おんなじにはならない」ことを体感し、同じにするための解決策を見つけていっています。

こうした感覚は、単に数量への関心だけで生まれるものではありません。 幼児同士の気持ちのつながりを基に、鬼と逃げる人数を同じにして遊びたいという必要感から生まれた感覚です。 この感覚にこそ価値があり、幼児期ならではの学びの大事なところです。

この原動力になっているのが『友達や先生と一緒に鬼ごっこがしたい』という幼児の意欲や主体的な態度、つまり「学びに向かう力・人間性等」の資質・能力です。 この遊びへの強い思い入れがあるからこそ、人数の違いへの気付き、それを確かめようとする過程でのもどかしさ、友達同士との試行錯誤の中から新たな考えやよりよい考えを生み出す喜びなど、様々な感情を生み出します。 それは、「思考力、判断力、表現力等の基礎」を育み、その繰り返しの中で、幼児なりに同じにする方法を見つけ出すなど「知識・技能の基礎」となっていきます。 そして、さらに分かったことを次に生かしたくなります。
つまり、「幼児期に育みたい資質・能力」は個別に育むものではなく、遊びを通した総合的な指導の中で3つが絡み合えば合うほど、確かな学びとなっていくのです。

幼児は、直接的・具体的な体験の中で全身の諸感覚を通して捉えたことを、たとえ、それが理にかなった方法でなくとも、自分なりのペースとやり方で試行錯誤しながら納得しつつ理解していきます。 「分かる“ようになる”」「できる“ようになる”」過程が幼児期の学びとして重要です。 この過程で「感じる」「考える」「気付く」「表現する」など、感覚の広がりや深まりが、小学校以降の資質・能力へとつながっていくのです。