NITSニュース第161号 令和3年2月5日

With コロナにおける学校組織マネジメントのバージョンアップ

滋賀大学 教授 大野裕己

新型コロナウイルス感染症の世界的拡大は、学校教育にも大きな影響を与えました。 学校現場は、情報や見通しを持ちがたい状況(VUCA時代)のなかで、感染予防、授業等指導計画の変更、児童生徒の学び・生活面での課題等への多面的な対応を余儀なくされました。

このような状況下においては、「学校内外の能力・資源を開発・活用し、学校に関与する人たちのニーズに適応させながら、学校教育目標を達成していく過程(活動)」(文部科学省2004年)である、「学校組織マネジメント」の重要性は、一層高まると考えられます。 ただし、これまで概ね「年度単位のサイクル」で、「目標-重点-具体策を演繹的に構想(Pに重点)」する形で現場に普及してきた学校組織マネジメントの様式は、子供の学び・育ちのこまりごと・課題が短時日で生起するWithコロナ期には、有用性の限界・課題を持ちます。 現在のスクールリーダーには、コロナショック期における好取組事例の示唆を踏まえつつ、上記の限界を踏まえた「学校組織マネジメントのバージョンアップ」の視野・行動が求められます。

バージョンアップの方向として、大きく2点を提示できます。

第一は、これまでの「年度単位PDCA」の発想を超えて、絶えず生起する危機(地域の感染状況、児童生徒の学び・育ちの課題)に組織として即応しうる、機動的な経営プロセスの具体化です。 例えば、教育活動に即した教員集団の「実態認識-課題生成-実践化」の課題解決プロセスを組織マネジメントにおいてより重視すること(佐古2006)、あるいは観察(Observe)・情勢判断(Orient)を重視した意思決定・行動(Decide-Act)という、意思決定活動高速化の枠組み(OODAループ(注))を学校組織に適用すること、が考えられます。 もちろん、学校においては、予算管理や対外的説明など、従来のPDCAサイクルが妥当性を持つ部分もあるため、方向性としては機動的経営プロセスを意識しながら、各経営場面での思考の棲み分けが求められます。

第二は、上の機動的な経営過程を実現する組織的条件として、現場第一線の教職員チームの「課題生成-実践化」「情勢判断-行動」を重視する、課題解決型組織を開発することです。 これは既存の校務分掌組織の活用、あるいは目的・期限を特定したプロジェクト組織の設定等として具体化できます。 ここで重要なのは、学校管理職(校長)が、学校の組織的課題の具体的な対応方法までを決めて降ろす「統制型」よりも、現場の教職員リーダーに適切に判断・実践化のイニシアチブを委ねる「分散型」組織づくりの思考に立つことです。 このとき校長の役割・リーダーシップは、コロナ対応において勤務校で大切にする価値や使命を提示・共有すること、教職員チームでの課題解決を重視する校内組織を明確化すること、そのチームでの実践の効果検証と解決パターンの学びを促進すること、得られた現場の成果・知を経営計画等に帰納的に還流・反映すること、に重心が移行します。

今次コロナショックは、従来の経営サイクル(年度単位+Pに重み)の限界・課題と、設置者・他校との横並び意識の複合により、学校の目前の危機への「思考停止」の危険性も浮かび上がらせました。 その克服に向けて、本コラムでは、機動的経営過程の思考及び新たな校内組織運営の構築の二点として、学校組織マネジメントのバージョンアップの方向性を試論しました。 近年、ミドルリーダーの育成・活用や分掌組織の改善に取り組む学校は多く見られますが、本コラムで提示した考え方も含めて、Withコロナにおける各学校レベルの機動的・持続的な組織マネジメントの新しい形態が創出されることが期待されます。

参考文献