NITSニュース第158号 令和3年1月15日

スタッフ・マネジメント

東京聖栄大学 教授 有村久春

各学校のスタッフ・マネジメントはどのように展開されると効果的でしょう。 リーダー的先生が心得たい要諦は、以下の3点です。

まず、子供との学び合いの事実に学ぶことです。 教育者として至極当然のことです。 初任者であれベテランや管理職であれすべての先生の必須要件です。 教育課程を実施する各学校にあって、このマネジメントの責務なしに先生の役割は意味を成さないものです。 教育者としての自己マネジメントでしょう。

とくに中堅教員の役割の一つは初任者や若手教員の授業力アップであり、そのサポートがマネジメントの中心です。 この充実が教員個々の専門性と教職観をよりよく錬磨するエネルギーになります。 この力量は先生力の自信をつくります。 何よりも子供個々の学習力アップ(学びに向かう力と人間性の涵養)に資するものです。 加えて、同僚や保護者からの信頼感獲得にも連関するものです。 ここでは2つのカンヨウ(涵養・寛容)が中堅教員のマネジメント力を支えています。 すなわち、リーダー個々の自己内改革としての勇気に資する専門性の担保と精神的ゆとりです。

次に、とりわけ経営的発想から、3Mのバランスの維持・向上に努めることです。 ヒト・モノ・カネの適切かつ効率的な活用です。 これらに加えて、いまある「情報」の取捨選択および有益な活用能力です。 これらはスタッフ・マネジメントをより機能化・実効化していく中核的資本ともいえるものです。

この経営感覚を中堅教員としてどのように見立て、理解し、自己関与していくのか、そこにある見方・考え方がキーになります。 それらに対するBeing(在り方)です。 少なくともHaveではありません。 それらが自校でどのように描かれ、どのような位置づけで構成されているのかを直視します。 その事態にありのままに自然体で接することです。 例えば、「若手教員研修プラン」の展開で、これらの資本と感覚を活かして運営する営みを実体験することです。 そして、その一部始終を記録していくことです。 この成果を内外に発表する機会があると大成功でしょう。

これらの展開には、いまやICTの活用などデジタル思考が不可欠です。 勇気ある発想のチェンジと早期の行動化が求められます。

3つ目は、「人ありき」の組織をつくることです。 もっと言えば、子供中心の学びの組織をつくることです(学校というシステムでは当たり前の論ですが……)。 ここには学校のマネジメント成果の真骨頂ともいえる〈学びを愉しむ〉時間と空間が豊かに漂うことになります。 子供たちと先生たちが学び合い、ワクワクする躍動的な学び体験があります。

ある意味のリビドー(libido)感の味わいでしょうか。 各々の学校にある学びのベースとしての文化資本(cultural capital)が、子供個々と先生のそれぞれの生き方に適時適切に作用し合うことでしょう。 それらが社会の有り様や学び空間などと結び付き、有機体的組織構造に位置していく体感覚なのです。

例えば、授業中の「問い」の応酬から子供自らが自己決定し納得感のある喜びをする瞬間、学級活動の話し合いで苦難の議論の末に自分たちの集団に必要な合意に辿り着くとき、また部活動等の課外活動の場で自らの修練を集大成させ優勝するときなどの興奮などでしょう。 これらいずれのときと場にも、〈人の力動〉が大きく作用しています。 この営みに自校のハビトゥス(habitus;習慣)(注1)としての学校文化をカタチづくる特異なベクトル(傾向性・性向)を獲得するでしょう。

ここに求められる〈先生力〉の基本が、子供との温かい応答(カウンセリング感覚)の実際であり、ものや自他の理解を確かに見極めるメタ思考の力量です。 この感覚は、温かい対人関係をつくるアサーショントレーニングや互いの内的な感情を感じ合うロール・プレイング体験などによって、より実行性のあるものとして修得されていくものです。

これら3つのマネジメントは、すべての教員個々のエンゲージメント(engagement;愛着心)を高揚させ、スタッフの組織力を実力のある確かなものにしていきます。

かつて、P.F.ドラッカーは〈人は最大の資産である〉として、人が組織にコミットし、そこにある仕事を愛することの大切さを提唱しています。 とくに彼はマネジメントの役割として、①自らの組織特有の使命を果たす、②仕事を通して働く人を生かす、③社会の問題解決に貢献する、の3点を挙げています(注2)。 私たち教職にある者が、時代を超えて学びたいマネジメントの基本であり、探究し続けたい課題でもあると考えます。

(注)