NITSニュース第157号 令和2年12月25日

映像記録を活用した授業のケースカンファレンスを

岡山大学教師教育開発センター 教授 髙旗浩志

10年前に前任の島根大学から本学に赴任しました。 それ以来、校内研修に伺う機会が格段に増えました。 研究授業を録画して授業者にDVDをお返しするようになったのもその頃からです。
当初、撮影の仕方は試行錯誤の連続でした。 教室後方の中央に陣取り、三脚を床に立てて教師中心に撮影しました。 しかし、人間の目線は思いのほか低く、子どもたちの後頭部が重なるばかりで表情が映りません。
ならばと教室の斜め前方から後方へとカメラを向けました。 この場合、子どもの表情は映っても、教師は画面の外側で声を響かせるばかりで板書も見えません。 この不足を補うにはカメラを頻繁にパンするしかなく、それゆえ船酔いのような映像ができあがりました。
一脚にカメラを載せ、メモを採りながら動き回ったこともあります。 しかしこの手法は、指導講評する者に都合の良い場面を恣意的にかき集めるのに向いていて、事後の客観的な検証に堪える情報量に乏しいのです。 なによりカメラを持ちながらメモを採ることが私の中で両立せず、その特殊技能は遂に身に付きませんでした。

度重なる失敗を経て、私自身が何を、どのように撮りたいのか分かってきました。 まず、編集を前提とするドキュメンタリー番組を作りたいわけでは無いのです。 私は1時間の授業の全貌を、教師と子どもの表情も含め、可能な限り一画面に収めたかったのです。 そうなると、カメラは自ずと教室後方の棚、もしくはロッカーの上の固定式と決まりました。 できるだけ高さを稼ぎ、天井付近から俯瞰して撮るのです。
カメラのフレームの上縁と黒板の上縁とを重ねるように構図を決めると良いことも分かりました。 画面の中心に先生を配置すると、天井と蛍光灯のハレーションが映り込み、全く無駄なスペースになるのです。 これを避けるために黒板とフレームの上縁を重ねると、教室全体を収めることができます。 いささか監視カメラ的ですが、教室で展開する相互作用の全貌は固定カメラにお任せし、肉眼と手書きのメモ帳は焦点化した観察記録に専念できるのです。

しかし、この方法も万能ではありません。 特に音声について、教師の説話や発問と子どもの応答は比較的明瞭に記録できますが、子どものつぶやきや話し合いの内容はほとんど聴き取れません。 しかし、カメラ1台で限界があるのは当然です。 特定の子どもやグループに絞ってICレコーダーを併用する、別のビデオカメラを同僚に託して撮影してもらう、速記を同僚にお願いする、といった方法で補うしかありません。

かつてビデオテープが主流であった頃に比べれば、現在ははるかに安価で簡便に高画質・高音質の映像を収録できます。 しかしその割には、授業を録画し、その映像を個人でも校内研修でも活用している様子はあまり見られません。 ある先生などは「これほど背筋の凍るホラービデオは無い」と苦笑しておられました。 もとよりその通りですが、いまやスマホでもタブレットでも録画できる時代です。 映像をPCで再生し、その音声部分を自動認識で文字起こしすることも、フリーのアプリとネット上の無料サービスの組み合わせで、かなり精度高く実現できます。 たとえホラービデオでも、ご自身の授業の映像と向き合い、可能ならば逐語録を作成してみてください。 話し方のクセ、子どもへの伝わり感の濃淡、その他様々なポイントに気付き、授業改善への強い動機を持てることと思います。
また同じ教科・単元・「時」の授業を、複数の先生が異なる学級で実践する際、ぜひその模様を収めてください。 あとでその映像を互いに見合い、検討や分析を重ねることで、とても豊かな成果を得ることもできるでしょう。 ぜひいちど、映像を活用した授業のケースカンファレンスに校内で挑戦してください。 そして、撮影方法も含めた好事例を、NITSを介して皆さんと共有できればと思います。