NITSニュース第155号 令和2年12月11日

男女共同参画社会の実現に向けて、まずは振り返ろう

独立行政法人教職員支援機構 上席フェロー/OECD教育スキル局 政策アナリスト 百合田真樹人

女共同参画社会基本法が施行された1999年から20年を超えました。

基本法は前文で、憲法が謳う個人の尊重と法の平等の精神から、男女が「性別にかかわりなく、その個性と能力とを十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現」のために総合的かつ計画的な取り組みの推進を、21世紀の国の最重要課題のひとつに定めています。

2020年末の現在では、男女の身体的な性差とは別に、文化的社会的に付与された性差を意味するジェンダーの概念に対する国内での認知は高く、ジェンダーをめぐる課題への関心も広がっています。

国際的に高い評価を得ているスーザン・ファルーディの1991年の著作「Backlash(邦題:バックラッシュ-逆襲される女たち)」は、1970年代のアメリカの女性の権利運動と社会進出が、メディア主導の強い拒絶反応(backlash)にさらされた実態を明らかにしています。

それから遅れること半世紀の日本でも、ソーシャルメディアをはじめ既存メディアがジェンダー公正を求める声を単純化したり、誹謗中傷したりする強い拒絶反応の事例が頻発しています。

性別に基づいて構造化された差別(性差別)の克服には、文化や慣習といった歴史的な時間軸を伴う連続性への挑戦を要します。 このため、差別の克服に向けた道程は往々にして困難を極めます。

選択的夫婦別姓制度を例に見てみましょう。

個人のアイデンティティを尊重する社会の傾向、共働き世帯や女性の社会進出の増加による実務上の要請、さらには結婚や離再婚に伴う姓の変更の社会的・金銭的な負担軽減といった観点から、夫婦別姓を求める声は強くなっています。

2020年の朝日新聞の世論調査(固定・携帯)では、有効回答の69%が賛成、明らかな反対は24%でした。 50代以下の女性では、8割以上が選択的夫婦別姓に賛成でした。

その一方で、選択的夫婦別姓に反対する声もあります。 なかでも、同一世帯で別姓を用いることによる従来の家族観や結婚観への悪影響を懸念し、日本社会の家族や夫婦の「絆」に夫婦同姓は重要な役割を果たすとする主張が根強くあります。

こうした主張は、夫婦同姓が実態としての不具合や問題をもつことを必ずしも無視してはいません。 一方で、問題が存在することを認識しつつも、従来の社会制度とそこに含まれる文化や慣習が支える価値の連続性を分断することへの懸念と惧れが、反論の背景にあります。

男女共同参画社会の実現には、これまでの社会のあり方や、文化や慣習の積極的な見直しが必要です。 基本法はこれを「社会政策」に定めています。 男女共同参画社会は、分かりやすい標語や表面的な道徳観、ましてや数値目標を満たすことで成るものではありません。

そして、社会の成員の育成を担う学校教育の役割と責任は無視できません。 学校教育の現場では、単なる制度論や表面的な道徳論ではなく、現実の課題を前にして、異なる価値観が対立する現状を踏まえた変容に向けた総合的かつ計画的な取り組みが求められます。 これは単に児童生徒を指導することではなく、学校運営や教員集団の内部の文化を見直す文化変容を求めています。

新型コロナウイルス感染症をうけて、在宅勤務や遠隔指導がすすんでいます。 これらも文化変容をもたらしています。変わらない文化や慣習はありません。 押し寄せる変化を観察するとともに、より公正な社会に導く変化を創造する主体性(エージェンシー)が、変化の激しい社会において求められています。