NITSニュース第154号 令和2年12月4日

書くことの力を高めるカリキュラム・マネジメント

東京学芸大学 教授 中村和弘

小学校教育において、書くことの力を高めることは特に重要だと考えています。

書くことは、岡本夏木氏によると「二次的ことば」ということになります。 「一次的ことば」が、生活の中で、家族などとのコミュニケーションを通して培われるのに対して、「二次的ことば」は、学校教育などを通して、社会的なコミュニケーションを通して培われます。(岡本夏木『ことばと発達』岩波新書、1985年)

同じ話し言葉でも、おしゃべりのように、「ねえねえ」「あのさあ」「○○マルマルだよね」などのような会話は、「一次的ことば」で行われます。 それに対して、学級でみんなの前でスピーチをするときには、「私は○○マルマルだと思います」「理由は○○マルマルです」のように、「二次的ことば」が用いられます。 子どもたちは、こうした二つの言葉の使い方をしているといえます。

書き言葉は、基本的に「二次的ことば」になります。 生活の中で自然と身に付けていくというよりも、学校教育を通して意図的・計画的に育成を図る必要があります。

そのため、書くことの力を高めるために、これまでも「機会と場を生かした作文指導」といった指導の工夫が、様々に取り組まれてきました。

例えば、国語科における「書くこと」の指導を要として、各教科等の学習でも、ノートのつくり方を工夫したり、新聞やレポートなどのまとめ方を見直したりする。 あるいは、地域の方との交流の後にお礼の手紙を書いたり、委員会からのお知らせやクラブ活動の取り組みを画用紙にまとめて掲示したりする。 あらためて学校教育全体を見渡すと、いたるところに書くことの機会と場があることに気付きます。

そうした機会と場を生かすには、思いつきで「ちょうどいい機会だから書かせよう」とするよりも、前もって学年会などで「今度ゲストを招いて演奏会があるから、みんなでお礼の手紙を書かせたらどうか」「手紙文の書き方は、いつ国語の授業で扱っただろうか」「これまで、子どもたちはどんな手紙を書いてきただろうか」などのことを話し合っておくと、どのような用紙にどのくらいの分量をどのように書かせるかといった、具体的な指導の内容が見えてくるでしょう。

こうした意図的・計画的な取り組みを進めるには、次の二つのことが大切であると考えます。

一つは、1年間の各教科等の学習内容や学校・学年の行事などを、俯瞰的に見渡すことができるようにしておくということです。 それによって、「国語科で学んだ説明文の書き方を生かして、総合的な学習の時間で調べたことを文章にまとめる活動をしよう」といった、教科横断的に書く力を高める工夫を考えやすくなります。 あるいは、1年間の学校や学年の行事を見通して、どの機会にどのような文章を書くことができるかを計画しやすくなります。 その上で、具体的な指導の工夫や実際の活動の工夫を考えていくわけです。

もう一つは、学校の体制、組織づくりです。 書くことの力を、機会と場を生かして継続的に育成しようとしても、ある学年で取り組むだけでは効果は薄くなってしまいます。 学校全体で、教職員全員が関わって、問題意識を共有し、取り組みのアイデアを出し合い、活動を進めていく必要があります。 そのためには、まず、学校教育計画のグランドデザインをつくることが欠かせません。 また、実際の教育活動をどのように進め、教職員間でそれらをどのように共有したり検証したりしていくかという、仕組みづくりや組織づくりも大切です。

書くことの力は、各教科等の学びの基盤となる言語能力です。 そして、「二次的ことば」として、学校教育を通して身に付けていく資質・能力です。 基盤となる言語能力だからこそ、教科横断的な指導を工夫して育成を図る必要があります。 そして、学校教育で身に付ける資質・能力だからこそ、教職員みんなで子どもたちに関わり、機会と場を生かして指導していく必要があります。

この二つの指導の工夫を支えるのが、カリキュラム・マネジメントです。 いくつかの学校で先生方の取り組みにご一緒する中で、子どもたちの言語能力を育成する上でカリキュラム・マネジメントが欠かせないことを、あらためて実感しています。