NITSニュース第153号 令和2年11月27日

学校における感染症対策の在り方について

国立感染症研究所 感染症疫学センター 多屋馨子

「まず知ることから始めよう!」

「知る」ということは大きな感染症対策です。 感染症とその三大要因には、「感染源」、「感染経路」、「感受性」があります。 感染症の原因になる微生物のうち、細菌の大きさは㎛の単位で、光学顕微鏡で見ることができますが、ウイルスの大きさは㎚の単位で、電子顕微鏡でないと見ることはできません。 ウイルスは生きている細胞に感染しないと、自分自身の子孫を増やすことができません。 ウイルスの「イ」を小さく書いていることを見かけることが時々ありますが、これは間違いです。 「ウイルス」の正式な表記は、すべて同じ大きさで書きます。

「主な感染経路」

主な感染経路には、「空気感染」、「飛沫感染」、「接触感染」、「経口感染」、「血液媒介感染」、「蚊媒介感染」などがあります。 空気感染は、感染源となる人と同じ空間を共有して感染します。 飛沫感染は、飛沫が飛ぶ1~2m範囲にいる人に感染します。 会話でも多くの飛沫を飛ばしていますが、マスクを装着することで飛沫を飛ばすのを防ぐことができます。 日本脳炎やデング熱、黄熱などは、蚊媒介感染症ですが、これらの感染症は人から人には感染しません。 このように感染経路を知っていることは、大きな感染症対策に繋がります。

「感受性対策」

「感受性がある」というのは、その病原体に対する免疫が不十分なことを意味します。 感受性をなくすためには、あらかじめ予防接種を受けて、免疫を獲得しておくことが大切です。 予防接種は、病気を予防する最も特異的で、最も効果のある方法です。 予防接種の記録は、母子健康手帳に記載されています。 「記憶きおく」はあてにならないので、必ず「記録きろく」で確認しましょう。 ただし、私達の身の回りには、ワクチンが開発されていない感染症が沢山あります。 ワクチンがまだ開発されていない病気は、「知る」ということが感染症対策になります。

「風疹第5期定期接種」

職員の予防接種歴、感染症罹患歴を記録で確認し、リストをあらかじめ作っておくことは大切です。 2019年~2021年度までの3年間、第5期風疹定期接種が実施されています。
対象は、昭和37年4月2日~昭和54年4月1日生まれの男性です。 この生年月日の男性は、風疹に対する免疫を持っていない人が多く、この年齢の男性の間で、数年ごとに大規模な風疹の全国流行が起こっています。 この生年月日の男性には市町村(特別区)からクーポン券が届いていますので、それを持って医療機関を受診してください。 クーポン券は、職場健診でも使えるようになっています。 クーポン券を使って風疹の抗体検査を受けた結果、抗体価が低かった場合は、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を無料で受けることができます。
2020年9月現在、クーポン券を使って風疹の抗体検査を受けた男性が全国で約15%しかいません。 これでは、風疹の流行が再び起こってしまいます。 風疹は発熱、発疹、リンパ節の腫れを特徴とする感染症ですが、重症になると、血小板減少性紫斑病や脳炎を起こして、入院が必要になることがあります。
また、妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染すると、胎児も風疹ウイルスに感染して、出生児が先天性風疹症候群という病気(白内障、難聴、先天性心疾患など)を発症する可能性があります。 自分自身のみならず、大切な家族、職場の同僚、そして未来の赤ちゃんを風疹ウイルスの感染から守るためにも、昭和37年4月2日~昭和54年4月1日生まれの男性はこの機会を忘れないで欲しいと思います。

「風疹第5期定期接種」

COVID-19は世界中に拡がり、日本でも感染者数が急増しています(注1)。 マスクの着用、咳エチケット、手洗いの励行、換気、3つの密(密閉、密集、密接)を避けて、5つの行動様式(1)を取り入れ、体調が悪いとき、普段と違うと感じた時は無理をせず一旦お休みして、体調が回復してから登校、出勤することが大切です(注2)。
誰が感染しても不思議ではありません。 感染した人は決して悪くありません。 感染症にかかることは悪いことではありません。
感染した人がいたら、それが児童・生徒であっても、職員であっても、回復して学校に登校してきたら、もう大丈夫?と、優しい声をかけてあげられる学校の環境づくりをお願いしたいと思います。 感染した人がつらい思いをしたり、いじめにあったりすることは決してあってはなりません。 これらのことを、職員と保護者、児童・生徒がみんなで共通認識として気持ちを一つにして、感染症に対応していきたいと思います。

参考文献