NITSニュース第152号 令和2年11月20日

スタッフ・マネジメント~学校事務職員の使命と成長~

国立教育政策研究所 初等中等教育研究部長 藤原文雄

幸福(ウェルビーイング)という概念が、学校の使命を語る上での重要な概念として注目されるようになりました。 幸福とは、個人の権利や自己実現が保障され、心身ともに健全で満たされた状態のことです。

学校は、「よりよい社会と幸福な人生の創り手」となれるよう優れた教育を行うことによって、子供の幸福に貢献することができます。 しかし、学校は教育以外の面でも、虐待防止、健康管理、貧困対策、子供を取り巻くつながり作りなど、多面的に子供の幸福に関わっています。 こうしたことは、新型コロナウイルス感染症による臨時休校がもたらした多様な影響によっても、改めて確認されることとなりました。

子供の幸福実現を使命とする学校に勤務する学校事務職員の使命は、情報、お金、施設、信頼といった有形・無形のリソース(教育資源)を開発、活用することによって、子供の幸福実現を支援することです。 例えば、就学援助事務や福祉機関とのつなぎを行うことによって子供の学習環境を整えたり、地域と連携協働し教育課程を充実させたり、学校事務職員は多様な形で子供の幸福実現に貢献することができます。 こうした仕事を遂行する上では、学校事務に関する専門的知識に加え、教育的素養(スクールリテラシー)が不可欠です。 こうしたことから、学校事務職員は、子供の幸福実現に貢献する教育的素養を有した「リソースマネジャー」と言えるでしょう。

2020年に文部科学省は、服務監督権者である教育委員会が学校事務職員の職務内容を定める際の「基礎資料」として、「学校管理規則の参考例」及び「標準的な職務の例及びその遂行に関する要綱の参考例」を作成し、教育委員会に通知しました。 そこでは、学校事務職員は、総務、財務、管財などについて一定の責任を持って自己の担任事項として処理するとともに、学校全体の意思決定、教育活動、地域連携協働といった校務運営により主体的・積極的に参画する職として位置付けられています。 同通知は、そうした学校事務職員像に立って学校事務職員が専門性を発揮できるよう、教育委員会に管理規則の見直し等を通じた環境整備及び人材育成の充実を求めています。

こうした環境整備が進みつつある今日、学校事務職員にも自らの資質・能力及び意欲を高める努力が必要とされています。 近年、学校事務職員の資質・能力及び意欲と関連性を持つ要因を探究する研究が進められています。 例えば、学校事務職員という職に対する「誇り」、「交流・承認機会」(児童・生徒と交流し、児童・生徒のためになる取組を達成し、フィードバックされる機会)の多さ、業務の中で「経験学習」(挑戦、省察、教訓化、実践のサイクルを行う)をしっかりと行っている程度、「研究・研修機会」(学校や都道府県という枠を超えて学校事務職員同士が出会い研究成果を交流し合う機会)の多さ、などが資質・能力及び意欲と関連性を持つことなどが明らかにされています(藤原文雄『スクールビジネスリーダーシップ~スクールビジネスリーダーシップ基礎研修テキスト(1)~』学事出版、2020年)。 独立行政法人教職員支援機構の中央研修受講の有無も、学校事務職員の資質・能力及び意欲と関連性を有していることも明らかになっています。 同研修は、学校や学校事務に関する本質的理解を深め、全国の仲間と出会い、「誇り」を高める機会となっているのでしょう。

これらの研究からは、学校事務職員としての誇りを持って、子供と触れ合い、仕事の中で挑戦・内省し学び続け、学校という枠を超えて幅広く交流する、こうした学校事務職員こそが、資質・能力及び意欲を高め、子供の幸福実現に貢献することができると言えそうです。 学校に通う子供はそれぞれ固有の課題を抱えています。 全ての子供が今も、未来も笑顔でいられるように、学校事務職員の皆さんの成長と活躍を心から応援しています。