NITSニュース第150号 令和2年11月6日

体罰禁止規定と向き合う

日本女子大学 教授 坂田仰

懲戒手段としての体罰が、学校教育の場において法的に禁止されていることは誰もが知っています。 「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」とする、学校教育法第11条の規定です。 その文言から理解可能なように、一切の留保や例外なく体罰を明確に禁止しています。

だが、今も体罰は厳然と存在し続けています。 つい先日も兵庫県下の中学校において、部活動で生徒が重傷を負う体罰事案が発覚し、顧問教員が逮捕されるという事態にまで発展しました。 マスメディアによれば、この顧問教員は過去にも体罰を繰り返し行っており、何度も処分等を受けていたそうです(地方公務員法上の減給処分1回、事実上の懲戒に当たる訓告2回)。

2018(平成30)年度に体罰を理由として懲戒処分を受けた公立学校の教諭等は141人、その内訳は停職処分13人、減給処分73人、戒告処分55人となっています。 他に懲戒処分には至らない訓告等が437人もおり、懲戒免職や長期間の停職処分が中心を占める飲酒運転などと比較して、圧倒的に軽いことが分かります。 明確に禁止する法令が存在するにもかかわらず、体罰は一向になくなりません。 それどころか、発覚した場合の処分も重いとは言えないのです。 学校現場には本気で体罰を駆逐する決意があるのでしょうか。 体罰を「善し」とする「本音」が、懲戒処分を行う側にも見え隠れしているように思えます。

この点、司法の姿勢は明確で、刑事、民事の区別を問わず、体罰に否定的です。 例えば、大阪市立高等学校バスケットボール部体罰自殺事件の民事訴訟判決は、「体罰を加えることはできないと定め、一切の留保及び例外なく体罰を明確に禁止して」いるのであり、教員が行った生徒等に対する指導の過程における有形力の行使は、「すべからく、教育上の指導として法的に許容される範囲を逸脱したものとして、不法行為法上違法と評価される(暴行としての違法性を阻却されるものではない)ものというべき」と言い切っています(東京地方裁判所判決平成28年2月24日)。

学校教育法の制定から約半世紀が経過した1996(平成8)年、「戦後50年を経過するというのに、学校教育の現場において体罰が根絶されていないばかりか、教育の手段として体罰を加えることが一概に悪いとはいえないとか、あるいは、体罰を加えるからにはよほどの事情があったはずだというような積極、消極の体罰擁護論が、いわば国民の「本音」として聞かれることは憂うべきことである」(東京地方裁判所判決平成8年9月17日)と、体罰禁止規定を巡る「本音」を批判した判決が存在します。 それからまた四半世紀が経過しました。 にもかかわらず、未だに同様の議論が繰り返されているように見えます。 児童虐待防止法等、保護者による体罰すら禁止されようとする今日、学校現場はもとより、日本社会全体が体罰禁止規定に正対すべきときを迎えているのではないでしょうか。