NITSニュース第149号 令和2年10月30日

非常時こそ、スタッフ・マネジメントが問われます!!

早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授 河村茂雄

「日本の学校は非常時です」 2020年、教育改革のスタートをきる年でしたが、一転して、新型コロナウイルス肺炎の問題で、学校現場も通常の教育ができないのです。

学級集団分析尺度QUの実施結果からも、意外な子どもが学級生活不満足群になっていた、学習意欲が大きく低下した子どもたちが目につく等、個々の子どもの問題が報告されています。 また、行事が中止され、特別活動が削減される中で、三密予防の注意を頻繁にしていたら、学級集団の状態が「かたさ型」になってしまい、その中で不登校気味の子どもが増加してきた、等の訴えが急増しています。

人は、個人では対抗しようがない巨大な厄災に直面すると、不安がとても高まり、非建設的な行動をしがちになります。 教師も例外ではなく、自分の実践に不安が高まります。

そして、ちょっとしたことで同僚とぶつかり、口論などして、自分の不安を発散しようとする傾向が高まります。 その結果、教員組織は不安定になり、それが個々の教師のメンタルヘルスをさらに悪化させることになり、教師の教育実践はとても低調になってしまいます。

「非常時こそ、組織対応の徹底が大事です」 親和的で建設的な教員組織を構築するために、“スタッフ・マネジメント”が必要です。 それは、組織内人材を人的資源として、戦略的に計画、開発、活用することによって、組織へのコミットメントを高めながら、経営戦略の実現を目指す人事管理手法で、非常時こそ、管理職は適切に展開をすることがマストになるのです。 まさに管理職の真価が問われるのです。

非常時には、不安が高まる要因の1)と2)に、具体的な対応をしていくことが必要です。

1)先々、よくないことが起こりそうだ
(具体的な対応)先々起こる可能性のある問題を事前に明示する
今後想定される問題をみんなで抽出し、整理し、全員で共有していくのです。

2)よくないことが起こったら対処できず、大変なことになる
(具体的な対応)1)の問題が起こったら、何をするかを周知して、実行していく
やるべきこと(優先順位も定める)・やらないこと・やってはいけないこと、を明確にして、全員で共有して、活動していきます。

そして、一定期間後、実行したことの評価をし(筆者はその指標としてQUを活用しています)、新たに1)と2)に取り組んでいくのです。 まさに、PDCAサイクルを回すのです。

このプロセスで、定期的に、教育実践の見通しを周知してストレスの軽減を図り、適切な場を設定して、個々の教師の取り組みと頑張りを、能動的にみんなで認め合っていく、この流れを確実に展開し、教師たちの不安を抑止し、意欲を維持していくことが大事なのです。

「コロナ下の非常時は、長い取り組みになる」 悲観し過ぎず、楽観し過ぎず、“組織対応”で、子どもたちや学級集団の実態を把握し、情報を整理し、実態と情報との関連を分析し、学校全体の教育実践を確実に展開していくことが求められます。 この取り組みを、地道に続けていくのです。

非常時においては、自分のやるべきこと、役割を、誠実に続けることが、教師アイデンティティを安定させることにつながり、それが、教師個々のメンタルヘルスを維持することになるのです。 そして、その結果として、学校全体の教育実践の質を高めていくことにつながっていくのです。