NITSニュース第147号 令和2年10月16日

児童生徒の探究的な学びを支えるICT

鳴門教育大学 准教授 泰山裕

学習指導要領では「何ができるようになるか」が重要視され、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善が求められています。 同時に、GIGAスクール構想によって児童生徒1人1台のICTが整備されることになります。 教員だけでなく、児童生徒がICTを持っているということは、児童生徒がそれを活用するような探究的な学びを、児童生徒が主体となって進めることが求められます。

学習指導要領解説、総合的な学習(探究)の時間編では、探究的な学びの過程を「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の大きく4つに分けて説明しています。 そして、これらの一連の学習活動を発展的に繰り返していくことが、探究的な学びであるとしています。 これからは、総合学習だけでなく、あらゆる教科等で探究的な学習の過程を児童生徒が主体的に進めていくことが求められており、そのための道具としてICTを活用することが求められます。

このことは、学習の主体が教員から児童生徒へと移っていくことを意味します。

これまではどちらかと言えば、教員が学習対象や課題を提示し、教員が収集した情報を提供し、整理・分析の方法や、まとめたり表現したりする方法を指定することが多かったのではないかと思われます。 しかし、それだけでは「何かができるようになる」ことは難しいでしょう。 実際にやってみることでより深く理解し、できるようになる。 やってみるから、わからないところに気づき、もう一度学習する、というような「腑に落ちる」学習体験を実現することが求められているのです。

もちろん、いきなり児童生徒に学習の主体を丸投げすることはできません。 発達段階に応じて、少しずつ学習の主体を児童生徒に移していくと同時に、その学習を支援するための道具としてICTを活用することが求められます。

それでは、児童生徒の探究的な学びを支えるために、ICTはどのように活用できるのでしょうか。 また、その際に、教員に求められる役割とはどのようなものなのでしょうか。

児童生徒がICTを活用することによって支援されやすいのは、「情報の収集」や「まとめ・表現」の場面です。 「情報の収集」場面では、ICTを活用することによって、インターネット検索により、珠玉混合で多様な情報を見つけることができます。 文字情報だけでなく、動画情報なども扱うことができます。 また、観察やインタビュー等の体験による情報収集の場合にも、カメラや録音機能などを活用して記録することで、体験したことを“情報”として取り出しやすくなります。

「まとめ・表現」場面でも、文字情報だけでなく、画像や動画、音声など、多様なメディアを使って表現できたり、まとめたものを学校以外の人に広く知らせることができたりします。 同時に、この場面では、時間的制約を超えるというICTの特性を活かして、学習の履歴や活動の様子をポートフォリオ化して、学びの振り返りを支援することもできます。 例えば、ワークシートなどを蓄積しておき、以前の考えと今の考えを比べて学びを自覚させたり、昔の写真やデータと今のものを比べて状況がどのように改善されたのかを明らかにしたりして、さらなる課題の発見を支援することもできるでしょう。

「課題の設定」や「整理・分析」場面においても、ICTを活用することは可能ですが、それ以上に、ICTの活用によって得られた情報をもとに自分で考えるということが重要になってきます。 ICTによって、情報の量が多種多様になり、表現することも容易になったからこそ、自分の頭で考えることの重要性は増してくるでしょう。 この場面ではICTに限らず、例えば、思考ツールなどを活用することによって、探究的な学びを支援することが必要になるでしょう。

このようにICTを活用し、得られた情報を頭の中で適切に整理・分析しながら学習を進めるための資質・能力のことを、学習指導要領では「情報活用能力」と呼び、学習の基盤となるものとして位置付けられています。

児童生徒が主体となって学習を進めるということは、児童生徒に好き勝手やらせて放置することを意味するわけではありません。 児童生徒が主体となって探究的な学びを進めるためには、児童生徒に情報活用能力を身につけさせ、その発揮を支援するという教員の役割が重要になります。

児童生徒がICTを活用した探究的な学びを進める中、そこで必要となる情報活用能力を事前に想定した上で、児童生徒の状況を適切に評価し、足りない部分は指導したり、アドバイスしたりしながら、児童生徒の探究的な学びをガイドすることが必要です。

児童生徒の探究的な学びを支えるためには、「正解を教える」のではなく、「児童生徒の探究をガイドする」という教員の役割の転換を意識することが重要になるでしょう。 そして、探究を支援するための道具としてのICTを適切に活用することが求められます。

ICTを活用した探究的な学びの中で、児童生徒の資質・能力を育成するために、教員は児童生徒の学習を適切に見取り、支援を行うことが求められます。