NITSニュース第143号 令和2年9月18日

インクルーシブ教育の推進

FR教育臨床研究所 花輪敏男

インクルージョン社会というものは、障害のある人もない人も、お互いが住みやすい・生きやすい社会ということです。 単に同じ地域、あるいは空間に居るというだけでは、インクルージョン社会とはいえないでしょう。

当然、学校もインクルージョン社会であるべきです。 実は、そのような学校は、特別支援教育の推進・充実の行き着く先の姿なのではないでしょうか。

特別支援教育への転換期には、特別支援教育というものが、どんな障害でも一緒に勉強するスタイル(つまり形だけのインクルージョン)との誤解から、特別支援教育そのものに反対を唱える人たちが、大勢いました。 「教育課程が違う場合でもすべて一緒に」ということはあまりに乱暴な話です。 「教育ネグレクト」の状態になってしまう子が大勢出てきてしまいます。 「その子に合った教育を」というのが正しいのではないでしょうか。

現在、通常の学級には、多くの発達障害のある子が存在しています。 つまり、通常の学級は、障害のある子もない子も一緒に生活しているという状態であると言えます。 この学級が、差別のない世界であり、認め合い・助け合い・協力し合う集団であり、互いが成長する学級であることが、インクルーシブな学級であるということにほかなりません。

「筆者は、特別支援教育の充実とともに、5~10年後には、発達障害の二次障害である不登校や非行が半減するのではないかと期待しているところである。」と、私は、平成19年発行の教育関連書籍に書きました。 平成19年と言えば、特殊教育から特別支援教育へと大転換が図られた年です。 今、果たして「特別支援教育の充実」がなされてきたのか、深い反省の中でこの書籍の改訂版の原稿を書いています。

発達障害のある子は、学校生活の中で多くのストレスを感じて生きています。 発達障害があるために、人間関係がうまく作れなかったり、勉強が分からなくなったり、集団で活動することが困難になったりしてしまっているからです。 そこで大きなストレスを感じ、その結果、二次的な問題として、不登校(非社会的問題行動)や非行(反社会的行動)等に陥ってしまうというメカニズムではないかと考えています。 このことは、発達障害ゆえのストレスを軽減することが、二次障害の予防になるということです。 つまりインクルーシブ教育の充実が、大きな予防策になるということにほかなりません。

今年は、特別支援教育への転換が図られてから14年目になります。 不登校や非行は減っているのでしょうか。 児童生徒数は減少しているのに、不登校等は減少するどころか、むしろ増加しているのではないでしょうか。 非常に厳しい現実を突きつけられています。

これまで特別支援教育は、体制整備がなされ、様々な施策がなされてきました。 つまり、ハード面は非常に充実してきたことは事実だと思いますが、果たしてソフト面はどうだったのかと厳しく問われているのではないかと思っているところです。

障害のある子が、ストレスを感じない生活を送ることができるということが、インクルージョン学校の第一歩なのではないでしょうか。