NITSニュース第140号 令和2年8月28日

ビジョンを明確にして【手段の目的化】を回避しましょう

日本大学 文理学部教育学科 教授 望月由起

収束の見通しがつかない未曽有の災禍の中、皆様のご苦労はいかほどかと拝察致します。

今年度の「キャリア教育指導者養成研修」において、「縦の連携を意識したキャリア教育」というテーマで講師を務める予定でしたが、6月だけでなく8月の研修も中止となってしまいました。 この研修に参加して10年ほどになりますが、「学び」だけでなく「つながり」という点でも有益な機会でしたので、非常に残念です。

とはいえ大学も同様ですが、小学校・中学校・高等学校でも「それどころではない」状況なのではないでしょうか。 このような状態では、どれほど有益な研修であっても、「研修に参加すること」が『目的』になってしまう恐れがあります。 本来、「研修に参加すること」はひとつの『手段』であり、それによって達成を目指す『目的』がその先にあるはずです。 この『手段』と『目的』が曖昧になったり、両者を取り違えたりしてしまうことによって、『手段』が『目的』になってしまうことを【手段の目的化】と言います。 この現象は、教育という営み、特に学校という場において、意外に多く生じているのではないでしょうか。

今年度の研修で私が担当するはずであった「縦の連携を意識したキャリア教育」でも、同様の現象が起こり得ます。 そもそも原則として、「連携」はひとつの『手段』のはずですが、「連携」それ自体が『目的』になっているケースを少なからず目にします。 皆様の学校では、その先に見据える『目的』に向けての『手段』として「連携」に着目し、特に「(校種間の)縦の連携」が有益であると判断した上での取り組みになっているでしょうか。 教師の目線でビジョンを描くことなく、『目的』も曖昧なままで、どこかで誰かが一方的に定めた何かを目指してPDCAサイクルを上手く展開したとしても、「やらされている」という負担感が大きくなるばかりではないでしょうか。

「キャリア教育」という言葉が公文書に登場してから、まだ20年余りです。 学校現場に急速に推進されていく中で、「やらされている」状態が続いていたかもしれません。 ですが、そろそろ、実際に「キャリア教育」の担い手となる教師がビジョンを明確にして、【手段の目的化】を回避しませんか。

コロナウィルスの影響により、キャリア教育の代名詞として認知されている「職場体験・インターンシップ」という『手段』を、これまで同様に実施することは難しくなるはずです。 今後は、その『目的』は大きく変えることなく、各地域の実情や各学校における創意工夫を生かした形で『手段』を再検討し、柔軟性をもって現実的なものにしていくことが求められるでしょう。 このような状況だからこそ、教師のビジョンを明確にして、校内で共有しながら、『目的』を具体的に設定し、目の前にいる児童や生徒に寄り添いつつ、それに適するような『手段』の検討を、時にはスクラップ&ビルドをしながら思い切って進めていくことが必要ではないでしょうか。

今回のコラムは少々漠然とした話となり恐縮ですが、皆様それぞれが思い当たる場面をイメージしながら、小さなことでも何か行動に移していただければ幸いです。 何かと不便の多い昨今ですが、この状況が一日も早く解消され、平穏な日々が戻りますように。