NITSニュース第135号 令和2年7月22日

児童虐待に係わる児童生徒への指導と対応

ストレス対処法研究所 理事 丸山里奈

児童虐待の悲惨な事件がマスコミで取り上げられる度、「これは氷山の一角だし……」と、前ほどビックリしなくなっている自分に気づきます。 虐待が発覚したら、児童相談所に通報すればスムーズに保護されて一件落着と思っていた頃の自分が恥ずかしいです。 ここでは、児童虐待への対応の難しさを3点ほどピックアップさせていただきました。

①SOSを言えない

自分からSOSを言えない子どもが多いです。 たまたま洋服の上から腕を掴んだら「痛い!」というリアクションがあった、最近怪我がやたら多い、ビクついている等、教員が不信に思っても、たいていの子どもは発覚が恐くて嘘をつきます。 私の経験でも、虐待対応のプロである児童相談所のヒアリングで、親が察知したことを怯え、SOSを撤回してしまったケースがありました。 身体的虐待なら視覚的な証拠がありますが、精神的虐待やネグレクトは周囲の力量でSOSをうながせます。 例えば小学生なら、靴下が左右違う、3日同じ洋服だ、というような黄色信号を察知する先生が重要です。 また、残念ながら性的虐待が増えていることも念頭に入れておきたいです(成人になってからやっと傷を語れる例が多いです)。

②一時保護の後のケアが肝心

一時保護にまで結びついたときは、いったん支援者は安堵しがちです。 私も現場に立ってから気づいたことですが、実は、一時保護の解除後のケアが、その子の将来に影響を与えます。 日常に戻る難しさを感じます。専門機関の手を離れて支援体制が薄くなったときこそ、重要な役割を担うのが学校です。 もちろん、加害者のケアも考えながら、恐怖経験のリハビリに役立つのが担任や学級の温かさです。 被虐児童は、自分が特別視されていないか気にしていますから、ナチュラルに見守ることも大切です。

③学校のありがちな落とし穴

虐待でもいろいろなケースがありますが、子どもの権利擁護として弁護士に係わって貰うことも少なくないです。 ある弁護士の「学校はつい、保護者の方を信じてしまうことがありがちです」という言葉が印象的です。 マスコミで取り上げられた事件にも、教育委員会や学校が加害者を見破れなかったことがありました。 私の知っている現場でも、「あのお父さんは立派な方だから」と発覚が遅れたケースがあります。 また、被虐児童がひどく怯えていたのに、加害者(保護者など)のところに戻りたがるケースが多いことも忘れてはいけません。 人間の心理的な不可解な部分でもありますが、この点を踏まえて指導していくことが周囲の大人の役割ではないでしょうか。

以上3点ほど、理論ではなく現場で虐待案件に少し係わったときに気づいたことを取り上げてみました。 最後に、負の連鎖にならないように、自己肯定感や大人の良いイメージをつくりあげること、また、加害者の更生にも援助することが、私たちの腕の見せどころであることを補足します。 事例をあげて、具体的に対応をお伝えできるときがあると嬉しいです。