NITSニュース第134号 令和2年7月17日
学校の生徒指導力を高めるために
関西外国語大学 教授 新井肇
個業場面が多い学校において、教職員が知恵を集め協力して児童生徒の問題行動への対応や危機への支援に取り組むためには、何が必要なのでしょうか。 個人に留まらずに教職員集団として日々の実践を振り返り、理論に基づいて課題解決策を追求していく姿勢を保持することが、重要であると思われます。 職員室での何気ない会話から、校内研修やケース会議での意見交換を通して、教職員間のコミュニケーションを活性化することによって、組織的な生徒指導を機能させる「学校の生徒指導力」が高まっていくのではないでしょうか。
しかし、学校内外における「連携・協働」の重要性が20年来言われ続けていることからも明らかなように、教職員集団として省察するシステムを構築することは、それほど簡単なことではありません。 学校の生徒指導力の向上を阻む障壁について、P.センゲの『学習する組織論』を手がかりに考えてみたいと思います。
- ①「私の仕事は○○だから」:組織内の人たちが自分の職務にだけ焦点を当てていると、各々の職務が相互に絡み合ったときに生み出される結果に対して、責任感をもつことができなくなります。
- ②「悪いのはあちら」:問題の原因は自分たちの外部にあると考える傾向です。例えば、不登校の原因はあの子の性格特性、保護者の養育態度とみて、自分たちを無傷な場所に置き、学校や教職員の影響のもとで何が起きているかということは問わない姿勢をさします。
- ③「先制攻撃の幻想」:積極的であることが大事だという風潮のなかで、ともかく何かをやっていればよいという気になり、理論や見通しに基づいた対応を怠ってしまうことです。
- ④「出来事への執着」:目の前にある個々の出来事への対応にばかりとらわれていると、出来事の背後にある長期的なパターンに気づいたり、いくつかの出来事を根底でつないでいるシステム的な問題を理解したりすることが妨げられてしまいます。
- ⑤ゆでガエルの寓話:カエルを煮立ったお湯の中に入れれば瞬時に外へ飛び出そうとしますが、室温の水の中に入れて徐々に温めていくと気持ちがよくてなかなか飛び出そうとせず、やがて湯だって脱出することができなくなるという寓話です。居心地がよいと思う環境の中に長くいると、その環境に潜む問題が問題として見えなくなり、慣れから惰性的な思考に陥ることの危険性を戒める喩えです。
- ⑥経験から学ぶという錯覚:過去に学ぶ学習だけでは、予想が難しいような新たな事態に対応することはできません。時には、出現するであろう未来に学ぶことも必要になるのではないでしょうか。そうでないと、正解が見えない複雑な課題に対する意志決定が常に先送りされる組織になってしまいます。
- ⑦経営チームの神話:管理職から解決策が示されるまで、自分たちは待っていればよいという考え方です。組織を構成する誰もが当事者意識をもって考える主体とならなければ、学校の組織改善は進みません。
上記の視点から、自分たちの学校の状況に無意識に影響を及ぼしている問題を見つけ出し、自分たちの実践を批判的に省察し、自分たちの行動を変革していくことが、学校の生徒指導力を高めるために求められるのではないでしょうか。
【参考文献】
- Peter M. Senge(2006)The Fifth Discipline:The Art & Practice of the Learning Organization (枝廣淳子・小田理一郎・中小路佳代子訳 2011) 学習する組織-システム思考で未来を創造する- 英治出版