NITSニュース第132号 令和2年7月3日

Withコロナ時代を見据えた子供の体力向上

東京学芸大学 教授 鈴木聡

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、令和2年3月から全国一斉休校となりました。 その後、緊急事態宣言が出され、新学期が始まっても一斉休校は続きました。 多くの子どもたちは学校で学ぶことができず、外で遊ぶこともままならなくなりました。 令和2年5月25日に全国的に宣言が解除され、登校日、分散登校、分割登校、そして通常登校へと段階的に学校が再開しました。 学校では、3密を避ける環境づくりやソーシャルディスタンスを加味して、工夫して運動を行わせるなど、「新しい生活様式」を模索しながら動き出しました。

子どもたちにとって、運動不足は深刻な問題です。体力のさらなる低下が危惧されます。 遊びや運動は、様々な運動感覚を身につけていく上では勿論、工夫し考える力を育むうえでも大切です。 仲間と遊ぶことで、コミュニケーション力もつきます。 新しい時代を生きる子どもたちに必要な資質・能力として、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」が挙げられています。 言い換えると、「技能」「認知スキル」「非認知スキル」です。 運動においては、これらの力はそれぞれ単独ではなく、相互に補完しながら身についていくと言われます。 こうした社会的有用性の側面、そして何より、遊びや運動に夢中になることで、子どもたちの世界は豊かになる側面から見ても、遊び、運動、関わり合うといった「体験の喪失」は、大きな問題です。

体力低下は、コロナ禍以前にも叫ばれていました。 そもそも体力とは、行動体力と防衛体力を指します。 行動体力は、筋力、敏捷性、平衡性、柔軟性、持久力、瞬発力のような身体的な機能及び体格や姿勢のような身体の形態を指します。 「体力テスト」等で測る体力がこれに当たります。 意思・判断・意欲などの力も行動体力です。強い意思を持っていることも「体力がある」と言えます。 防衛体力とは、身体の器官や組織のような「身体構造」や、温度調節や免疫力、適応力のような「身体機能」、ストレス抵抗力のような「精神面」に着目した力を指します。 その視点から見て、コロナ禍における子どもたちの総合的体力低下は、とても心配です。

「学びを止めるな」という言葉が聞かれます。 思い切って言えば、知識はあとからでも補完可能です。 子どもの成長は待ってくれません。 生涯にわたり健康に過ごすために、遊びや運動が不可欠なことは自明です。 健康を維持増進するには、「運動すること」「食べること」「睡眠をとること」が大切です。 極端に言うと、自然にお腹はすきます。自然に眠くなります。 運動だけは、環境や場が必要で、意欲的に意図的に取り組むことが求められます。

まずは子どもたちに思いっきり遊び運動することを保証したいものです。 3密を避け、ソーシャルディスタンスを保ちながら運動させる教師の工夫が、ニュースやSNS等で紹介されています。 運動させるだけでなく、子どもが工夫したり仲間と協力したりするような余白を仕掛けている実践もあり、素晴らしいです。 加えて、自分の体は自分で守るという「セルフマネジメント力」や、今後困難な状況が来た時にどのように工夫して過ごすか、生きるかという「セルフプロデュース力」を育む視点が重要です。 これは、体力の定義からも言えますし、知恵を絞り、創意工夫することで生活は豊かになります。 結果、総合的な体力向上が実現します。

予測できない課題、正解のない課題に対して知識や技能を総動員し、納得解や最適解を見つけていく力をつけることが大事だと言われます。 今回の事態は、まさにそれです。 主体的に行動し、責任をもって社会変革を実現していく姿勢・意欲を「エージェンシー」と呼びますが、子どもたちにその力をつけていくという意味では、ピンチをチャンスにできるのかもしれません。 「体力をつけるために子どもに運動させる」だけにとどまらず、自らエージェンシーを高められるように学びを創ることが、Withコロナを見据えた実践であり、現状への対応を超えた未来を創っていく実践になると思います。