NITSニュース第131号 令和2年6月26日

LGBTQの児童生徒の存在を意識することの重要性

宝塚大学 教授 日高庸晴

LGBTとはLesbian(女性の同性愛のレズビアン)、Gay(男性同性愛のゲイ)、Bisexual(両性愛の男女であるバイセクシュアル)、Transgender(生まれ持った身体の性別に違和感を持ち、身体の性別とは異なる性別で生きることを望むトランスジェンダー)、Questioning(異性愛か同性愛かといった性的指向や自分の性別をどのように捉えるかの性自認について、はっきり判らなかったり迷っていたりするクエスチョニング)の略です。 中高生の時期は、性的指向や性自認に関する情報も十分に届いていない場合もあることから、クエスチョニングであることが多いとも考えられています。 また、最近では自らの性別を男性でも女性でもない、男性でも女性でもある、中性、性別が定まらないとするXジェンダーと自称する人々の存在も注目されています。 実際に高校生でもそう表現する生徒たちは存在します。

LGBTをはじめとするセクシュアルマイノリティ(以下、LGBTQ)は、人口の5~8%程度の存在率であることが成人を対象にした調査で見積もられ、筆者が3年前に高校生10,560人を対象に実施した調査によれば(有効回収率90.3%)、10%がXジェンダーを含むLGBTQであると推定されています。

世の中のマジョリティとLGBTQの児童生徒の違うところは、性的指向と性自認、ときに性別表現(自分の性別を服装や言葉遣いなどでどう表現するか)の有り様が少しだけ違う、ということだけです。 しかしながらその違いが、特に小中高の学齢期には大変な困難に直面させられる事態にもつながっており、その多くは学校の中で発生しています。 「あれもこれも学校に求めないで欲しい」「自分の専門教科を教えるのが仕事なのに……」といった思いやお考えを持つ先生方もおられるかもしれませんが、いじめや不登校、自傷行為の背景要因に性的指向や性自認の関連があることも少なくない、そのことを知ってください。

筆者がLGBTQ当事者を対象にした全国インターネット調査(有効回答数15,064人)では、小中高でのいじめ被害率は58%でした。 先生がいじめの解決に役立ってくれたと認識しているいじめ被害者はわずか14%、刃物で自分の体を傷つける自傷行為経験率はLGBTQの10代ではレズビアンの47.8%、ゲイ16.9%、バイセクシュアル男性15.3%、バイセクシュアル女性42.1%、男性から女性へのトランスジェンダーで42.9%、女性から男性へのトランスジェンダーでは50.0%でした。 首都圏男子中高生の自傷率は7.5%と示す調査結果と比較すると2〜7倍以上であり、驚愕の高率となっています。 加えて、ゲイ・バイセクシュアル男性の65%に自殺念慮、15%に自殺未遂経験があり、異性愛男性に比較すると5.98倍自殺未遂リスクが高いこと、性的指向を誰にもカミングアウトしていない者に比して、6人以上にカミングアウトしていると自殺未遂リスクは3倍に跳ね上がることもわかっています。 当事者の児童生徒の意向に反してカミングアウトを後押しする学校現場が多くありますが、あらゆる可能性(メリットとデメリット)を十分に検討したうえで、カミングアウトを促しているのか疑問に感じます。

男子同士で戯れ合っている場面を見て「ホモやおかま、オネエか?」といった言い回しを教師自身が言ってしまうこと、言葉によるいじりやからかい、悪ふざけといった捉えでそれらを済ましてしまっていることはないでしょうか。 仮に当事者の児童生徒が言われる側であった場合、からかいで済む話で決してなく、彼らの命を脅かすことにまでつながってしまうことがあることを、是非先生方には知っておいていただきたいです。

そしてさらにお伝えしたいことは、彼らの生きづらさを軽減することや、いじめ被害・自傷行為・自殺未遂は、学校の頑張り次第で多くの場合防ぐことができる、その可能性がとても高いということです。 授業などを通じて性的指向と性自認の多様性を肯定的に先生方が発信すること、不規則発言があれば放置せずに毅然と対応することです。 先生方がそうやって繰り返し取り組む姿勢を示すことで、それを見た当事者(と、そうかもしれない)の児童生徒は、この先生には自分の葛藤や悩みを話しても大丈夫だと思い、何かあれば先生に話しに行くことにつながります。

これまでの研究結果の一部はホームページ(health-issue.jp )で公開しているので、ご関心があればご覧ください。