アクティブ・ラーニング研修実践事例
安曇野市校長、教頭、教務主任、研究主任合同研修会(平成28年8月)
「カリキュラム・マネジメント」の実現に向けた一歩
市内小中学校の管理職や研究主任等が集い、「カリキュラム・マネジメント」が求められる背景やいくつかの実践事例を知り、わが校の実態を把握・分析していく研修です。
Ⅰ 実施背景と目的
- この合同研修は、各学期に1回、市内小中学校の校長・教頭・教務主任・研究主任が集まって実施されます。例年、最新の教育事情を合同で学ぶとともに、中学校区ごとの分科会で小中連携について協議したり、校長・教頭・教務主任・研究主任がそれぞれ集まって協議したりと、連携を図りながら市内の子供たちの学びの充実を目指しています。
- 本年度は、「カリキュラム・マネジメント」の重要性は分かってきたがどのように進めればよいだろうか、という共通の課題意識の基、「最新の教育事情」の枠で本研修を実施することになりました。各校の「カリキュラム・マネジメント」を推進するための第一歩として、「カリキュラム・マネジメント」に係る県内外の事例を知り、自校の実態を把握・分析する方法を知ることを研修の目的としました。
Ⅱ 主な流れと時間配分全60分
- 説明「カリキュラム・マネジメント」が求められる背景 10分
文部科学省ホームページにアップされている複数の資料を使い、焦点化して復習します。 - 説明「カリキュラム・マネジメント」の事例紹介 20分
県内外の事例から「カリキュラム・マネジメント」の実現につながる事例を理解します。 - 演習「『カリキュラム・マネジメント』の実態を把握・分析しよう」 30分
「カリキュラムマネジメント・チェックシート」を使い、同一校の4人グループで自校の実態を分析します。
Ⅲ 事例のポイント
1 事例を「カリキュラムマネジメント・モデル」に当てはめて考える
- 市内の中学校で実施された「家庭学習プロジェクト」の事例(Ⅱの2で説明)を「カリキュラムマネジメント・モデル」に当てはめて紹介されました。この学校に限らず、家庭学習の内容充実が課題として挙げられながらも改善に踏み出せない学校は少なくありません。この学校の課題は「内容が作業的になりがちなこと、授業と家庭学習が連動していないこと、教員の点検が不十分なこと」でした。

(田村2009)
田村知子先生オフィシャルサイト(岐阜大学)より引用
- この課題を解決するため、「家庭学習プロジェクト」が立ち上がり、以下の二つの面から改善に向けたアプローチがされました。
【教育活動の面からのアプローチ】
a 家庭学習と学校教育目標とのつながりを見直し、教科横断的な視点で解決に向けた取組を始めた(図中ア)
b 家庭学習の充実に係るカリキュラムを創出するため、計画、実施、評価、改善を図る学校全体のPDCAサイクルを確立した(図中イ)
【経営活動の面からのアプローチ】
c 家庭学習に係る意識をマネジメントの側面からを振り返り、「提出してさえすればよいと考えがちな生徒・教員・保護者」という悪循環を改善していく方向性を見いだした(図中ウ・エ)
d この改善のために、保護者や地域の方々との連携・協働(図中カ)、教育委員会指導主事からの指導・助言(図中キ)という外部の資源を活用していく方向性を見いだした
-
ここの研修会に参加している校長・教頭・教務主任・研究主任は、「図中オ」に該当します。この事例では各リーダーがどのようにコーディネートしたのかが具体例を通して説明されました。とりわけ関心が高かったのは以下の保護者、地域の方々、教育委員会指導主事との連携です。
【保護者】...保護者向けに家庭学習ガイダンス実施、保護者からの励ましメッセージ、アンケート等
【地域の方々】...「放課後学習室」の講師として、教員とともに質問を受けるなどする
【教育委員会】...各教科の課題内容や評価方法などを教員とともに創出する - このように実際の事例を聞いて自校の実態と比較すると、何ができていて、何ができていないのかが明確になります。「PDCAサイクル」は学校全体を循環する大きなものから、教員一人一人が回していく小さなものまで様々です。さらに、この事例では生徒が毎週金曜日に家庭学習を振り返って課題を明確にし、次週への見通しを持つ活動が設けられるなど、生徒一人一人がPDCAサイクルを回していくという工夫がありました。
2 「カリキュラムマネジメント・チェックシート」を使って実態把握する

田村知子先生オフィシャルサイト(岐阜大学)より引用
- 県内外の事例を知り「わが校はどんな実態なのだろうか」という意識になったところで、右図「カリキュラムマネジメント・チェックシート」が紹介されました。
- このシートについての説明がされた後、「図中Ⅳ 教職員の全体的な雰囲気について」の部分を実際にチェックし、校長・教頭・教務主任・研究主任の四者で評価した理由を協議しました。
- たとえば「4-11 教職員は、学級や学年を越えて、児童・生徒の成長を伝えあい、喜びを共有している」の項目で、こんな会話がありました。
教頭「(4人全員「3(だいたいあてはまる)」と評価)そうだね、だいたい当てはまるかな?」
教務主任「休憩室に集まってると、子供たちの話題になることが多いですね」
研究主任「うちの学校のいいところですよね。みんな自然と子供たちの話になります」
校長「でも、『4(ひじょうにあてはまる)』じゃないよな」
教務主任「はい、『学年を越えて』って言うところが気になって『3』にしました」
研究主任「グループ研究会でも、他学年の話題になると、子供の姿が見えにくくなるんですよ。」
- このようにして、自校の特徴として「子供たちの話題が自然と出る」教員集団であるものの、「他学年の子供の学びについては見えにくいことがある」という実態が見えてきました。そこで、「カリキュラムマネジメント・モデル」に照らして考察したところ、全校研究体制において「他学年の授業を見合う機会が少ない」という課題が共有されました。本研修後、改善に向けた協議が行われたそうです。
Ⅳ 成果と課題
- この研修後、中学校区ごとの分科会と校長・教頭・教務主任・研究主任の各分科会が行われました。「今まで各校がそれぞれの教育活動の質を高めるために取り組んできたものに、カリキュラム・マネジメントの要素がある。ただし、さらに計画的に、組織的に行われるようにしなければならない」という意識を共有して、協議を深めることができたようです。
- 「カリキュラム・マネジメントの実現に向けた第一歩」を始めた参加者ですが、各校において全教員が協働して第一歩を踏み出すことが大切になります。また、学校と地域・家庭とが学校教育目標を共有することがカリキュラム・マネジメントを実現しやすくします。
報告者:研修協力員 谷内