アクティブ・ラーニング研修実践事例

岡山県立倉敷天城中学校(平成28年11月)

教科の枠を越え、全員が主体的に参加する研究協議

研究授業後の研究協議の方法を工夫し、アクティブ・ラーニングの3つの視点から、「生徒の学びの姿」と「それを支える教師の手立て」を見取り、学校全体で協働して授業改善に取り組む意識をもつための研修です。

Ⅰ  実施背景と目的

  • 教科担任制の中学校や高等学校などにおいて、教科部会を中心に行われる研究協議では、教科の「学習内容」やその「指導法」を中心に議論が深まる反面、教科の枠を越えた研究協議では教科専門以外の教師は意見を言いにくく、教科を越えた授業改善につながりにくいという背景がありました。
  • 教科の枠を越えて議論を進めていくために、議論の視点を従来の「学習内容」とその「指導法」から、「子供の学ぶ姿」と、それを支える「教師の手立て」に変えることにより、個々の教師の授業改善につながりやすくなりました。その結果、学校全体で協働して授業改善に取り組めるようになりました。

Ⅱ  主な流れと時間配分全65分

  1. 0. 研究授業後、研究会開始前までに、付箋を書き、模造紙に貼っておく 授業後20分間
  2. 1. 研究会の視点・方法について確認 5分
  3. 2. 模造紙に貼り出されたものを使って研究協議(①グループ協議②意見の総括③全体交流)35分
  4. 3. 授業者からコメント 5分
  5. 4. 研究協議を通して、自分の授業を振り返る(①個人②全体)10分
  6. 5. 指導・助言(講師)10分

準備物:模造紙(グループ協議用:各グループ1枚、共有用:1枚)、マジック(各グループ3本程度)、付箋(3色:水色、黄色、ピンク色)、サインペン(全員1本)、PC、プロジェクタ等

Ⅲ  事例のポイント

1  指導案作成上の工夫

  • 指導案の中に「学習指導要領改訂の方向性」の3つの柱を踏まえて、以下のように記述します。
何を学ぶか
本時の目標(教科の視点)を現行教育課程に則って記入します。
どのように学ぶか
授業構築の意図をALの3つの学びの視点を鑑み、単元設定の理由や教材観等に記入する内容の一部を、項目を別立てして、明確化します。)
何ができるようになるか
育てたい資質・能力と期待される生徒の姿について、学校で設定した資質・能力と教科学習との関連を明確化します。

2  研究協議での分析についての工夫

  • 研究授業後、研究会前までの間に、「子供の学ぶ姿」とそれを支える「教師の手立て」について付箋に記入します。付箋は3色で、水色は良かった点、ピンク色は改善点・検討点、黄色はそれに対する改善案とします。(ピンク色には可能な限り黄色を伴わせるように心がけます。)(※図1参照)
  • これらの付箋を、ベン図が印刷された模造紙にグループごとに貼っていきます。(※図2参照)
(※図1 付箋紙の記入について)
(※図2 事前に示す模造紙と説明)
(※写真1 協議の様子)
  • 協議するグループは、教科、学年、経験年数などを意図的に混合させた4~5人とし、それぞれの立場や経験からできるだけ多様な意見が出るようにします。
  • 貼られた付箋をもとに、参観した授業を参考にするとしたらどういったことがあるか、また改善するとしたらどういったことがあるかについて協議します。(協議ではさらに、ピンク色の付箋に対して、可能な限り黄色の付箋を付けてアドバイスを考えるように心がけます。)
  • 学校で設定した、重点的に育成を目指す「資質・能力」に対して、①手立ては有効だったか②別の有効な手立てはあるか③自分の授業ではどんな手立てが活用できるかについて協議します。(※写真1参照)
  • 協議後、他グループと協議の内容について交流します。これにより、協議の内容をより広くまとめ、今後の自分への取組につなげます。

3  分析を授業に活かす工夫

  • 振り返りでは、提案された研究授業を足がかりに、学校で設定した育成を目指す「資質・能力」について、授業改善に向けた具体的な取組として、すでに取り入れているもの、今後取り入れてみたいものを付箋の色を分けて記入します。(※図3参照)
  • これらの付箋を1枚の模造紙に貼りながら、同じ取り組みをまとめていきます。2色の付箋を記入することで、校内で取組の進んでいる教師が、今後取り組もうとする教師のアドバイザーになるように構造化します。(※図4参照)
(※図3 付箋紙の記入)
(※図4 模造紙のイメーシ)

Ⅳ  研修を進める上での参考事項

  • 研究推進部員が、各グループの協議をコーディネートし、視点に沿って円滑に進む役割を果たしています。
  • 付箋の貼り出しは、研修の中で行う予定でしたが、参加する先生方が積極的で、すぐに付箋を書き、貼り出したので、急遽研究授業と研究会の間の移動・休憩の時間を10分から20分に変更し、貼る作業まで休憩中に進めることとしました。このことで、授業者や担任などが生徒を下校させるために協議に遅刻することがなく集合できるという副次的効果も出ました。
  • 作成された模造紙は、職員が目につく場所に掲示し、日常的に意識できるようにしています。
  • この研究協議だけではなく、別途「教科部会」を開いて、教科の見方・考え方を働かせた深い学びをはじめとした教科の本質に迫る部分についても協議をしています。

Ⅴ  成果と課題

  • 学校で設定した、重点的に育成を目指す「資質・能力」を意識した授業構築につながっています。
  • 少人数での異教科間の協議により、多角的な議論が行われるようになりました。その結果、具体的な授業改善の見通しが出され、共有しています。
  • 振り返りで記述された付箋を貼った模造紙の掲示をきっかけに、職員室内で、授業改善についての取組の話題が活発になってきています。

報告者:研修協力員  山田