アクティブ・ラーニング授業実践事例

学校名:福岡県立福岡高等学校
教科等:3年古典B(平成29年10月)
単元名:名家の文章(「売油翁」)

内容を的確に捉え、作品の価値を考察する力を育成したい

  • 見通しを持つ
  • 多様な手段で説明する
  • 自分の考えを形成する

実践の背景

  • 実践校は創立100年を迎えた、1学年10クラスの普通科高等学校です。
  • 「気高さのある生徒」「豊かな情操と広い視野をもち、未来の世界と日本を展望する国際性豊かな生徒」「知性を磨き、心理を愛し、文武にわたって努力する生徒」の育成を目指し、授業改善に取り組んでいます。

授業改善のアプローチ

  • 特定の型にこだわることなく、生徒の実態や学習内容等を踏まえて、教師が適切だと考える形態の学習活動を選択し、取り入れています。
  • 説明動画を配信することで教師による説明を短縮し、授業では、生徒が対話や協働する機会を多くつくっています。
  • 教室のWi-Fi環境を整備したことで、生徒が個人のスマートフォン等を使って調べ、調べた内容を基に協議等を行うことができます。

単元づくりのポイント

目標

  • 他者の作品訳や解釈を聞き、自身の訳や解釈と比べながら、古典についての理解や関心を高めようとしている。
    【関心・意欲・態度】
  • 作品に登場する「翁」と「康粛公」の心情を的確に捉え、作者が主張したかったことを読み取ることができる。
    【読む能力】
  • 作品を読むために必要となる、語句の意味や句法について理解することができる。
    【知識・理解】

展開

全2時間

1 「売油翁」の本文の内容を把握しよう 【本時】

2 作者の思いを読み取り、自己の考えをまとめよう

「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善

本時のねらい

  • 他者の作品訳や解釈を聞き、自身の訳や解釈と比べながら、古典についての理解や関心を高めようとしている。
  • 作品に登場する「翁」と「康粛公」の心情を的確に捉えることができる。

授業場面より

  • ①見通しを持つ

    見通しを持つ画像

    「『売油翁』の内容理解を図るため、KP法(紙芝居プレゼンテーション)を用いて全ての班が2分発表する、発表に備え、要点をA4用紙10枚以内にまとめる」ことを聞いた生徒は、何のために何をどのように進めていけばよいか、本時の見通しを持つことができました。教師は、生徒が活動を円滑に進め、内容を的確に理解できるように、内容整理に5分、用紙の作成5分、打合せ等に5分など班活動の細かな流れを伝えることに加え、要点整理については内容だけでなく句形も示すとよいこと、スマートフォン等で人物や言葉について調べてもよいことを伝えます。限られた時間の中で要点をまとめる必要があるとと感じた生徒は、教師から班活動開始の指示を受ける前から自発的に、スマートフォンを取り出し調べ始めたり、本文を読み始めたりし、準備に取りかかりました。

  • ②本文の内容を整理する

    本文の内容を整理する画像

    生徒は、本文を読み込み、納得のいく解釈ができていない部分に関しては、語句や語法をで調べたり、班員と相談したりしてどのように解釈をすればよいか考えていきます。教師は様子を見て問いかけたりしていきます。ある班では、弓の達人陳康粛が激しく怒ったのはなぜかが話題となっていました。ある生徒が句法を調べ、「吾射不亦精乎」との表現は詠嘆形だから、弓の腕前を自画自賛していると伝えました。そして、翁の「但手熟爾」との表現は、「手熟」だけだと熟練しているになるけれど、「但手熟爾」との表現は限定なので「ただ熟練しているだけ」になるから、否定的な言葉になるので、自慢げに語りかけた陳康粛は激しく怒ったんだと捉えるようになりました。改めて文法に着目して解釈をすることで、登場人物の心情に気付き、解釈をより確かなものにしていました。

  • ③発表内容をまとめる

    発表内容をまとめる画像

    発表はKP法で行うため、用紙を分担して作成していきます。導入時に発表方法を聞いていたので、生徒は作成前までに本文の内容について吟味を重ねてきました。この発表方法では、図示したり、キーワードを選ぶ必要があるため、さらに班内で検討を重ね提示内容を精査していきました。ある班では、全ての班が発表するから、重複しそうな要点の説明は敢えて省き、漢字の意味の違いに着目して解釈した内容を伝えようと相談し、「但手熟爾」と「惟手熟爾」を中心に用紙を作成していました。「但は、むなしくやいたずらにという意味があり、惟は、一つのことに心をつなぎとめるという意味がある。康粛に対しては但を使い、売油翁に対しては惟を使っているのには意図がある」ことを伝えようと相談し、用紙にまとめていました。このように、他者への説明を前提に発表内容をまとめることが、字句通りの訳をするだけでなく、意識的に本文を読み込み精査・解釈していく姿に繋がりました。

  • ④解釈の多様性に気付く

    解釈の多様性に気付く画像

    発表は、希望する班から代表者が出てきて行います。陳康粛と油売りの翁とのやりとりを中心に人物像に迫りながら説明する班、あらすじと重要句形をのつながりを基に人物の心情を説明する班、筆者が伝えたかったことを本文の内容から推測して説明する班、気になる表現を取り上げ、そこで使われている漢字の意味の違いから、翁の心情の解釈を試みた班、教科書の注釈に着目して荘子や孟子の思想と比較して本文の内容を説明しようとした班と、多様な視点からの本文解釈の発表がなされました。発表後に教師は、「(前に発表した班と)同じだろうけど・・・と言いながら発表した班もあったけれど、同じ箇所を取り上げていても目の付けどころが違っていたので面白かったです」と生徒の発表を価値付けます。生徒は、他の全ての班の説明を聞くことで様々な視点や解釈があることに気付いていきました。このことにより、自身の解釈の妥当性について改めて検討するとともに、筆者の主張したかったことを考察していきたいとの思いが高まりました。

報告者:研修協力員  山本