NITSニュース第186号 令和4年2月10日

外国語教育における小中連携のゴール

文部科学省初等中等教育局 視学官 直山木綿子

令和4年1月11日より3日間、NITS主催、文部科学省共催による「小学校における外国語教育指導者養成研修」がオンラインで開催されました。 参加者の方には、福井県教育委員会の御協力の下で撮影された、本県内小学校4年生の外国語活動及び5年生外国語科の授業に加え、中学校2年生英語科の授業動画を事前に視聴したうえで、本研修講座に御参加いただきました。 小学校外国語教育の指導に関わる先生や、教育委員会指導主事など、約200名の方が参加されました。 3日間の講座では、小学校外国語教育の現状及びその成果と課題についての講義や、事前視聴による授業動画を基に、グループで外国語活動や外国語科の指導の在り方についての協議や、御参加の方々の学校や地域での成果と課題について交流などを行い、実りの多い講座となりました。

さて、本講座参加にあたり、参加者には事前に本講座で学びたいことについて御意見等を提出いただいたところ、「小中連携」について学びたいという御意見が大変多く、次いで「学習評価」「外国語科の授業の在り方」でした。 そこで、本稿では、「小中連携」について取り上げ、小中連携を充実するためのポイントについて解説をします。

文部科学省では、外国語教育推進室が毎年度「英語教育実施状況調査」を実施しています。 昨年度はコロナ禍により実施されなかったため、最新の調査結果は令和元年度のものです。 詳細は令和元年度「英語教育実施状況調査」の結果について を御参照ください。 これによると、小中連携の実施が一部地域で徹底されておらず、小学校新学習指導要領の移行期間である平成30年度、令和元年度においても、2割程度の中学校区が取り組んでいないという結果です。(上記URL上部の「令和元年度『英語教育実施状況調査』概要」 のPDF資料21ページ目参照) 本調査では、「小中連携」の形態を、①「情報交換:授業参観、年間指導計画の交換等」、②「交流:指導方法等についての検討会、授業参観後の研究協議等」、③「連携したカリキュラム作成」の3つの観点で分類していますが、①から③になるに従い、取組の割合が減少し、「カリキュラム作成」に至っては2割に満たない状況です。

さて、小中連携が一部の地域において進んでいないことについて、次のようなことが要因として考えられます。 小学校及び中学校の教員は、日々多忙を極めており、「小中連携」の必要性は十分理解しているものの、互いの授業を参観し合ったり、研究授業について協議をし合ったりすることはかなり難しいと思われます。 しかしながら、例えば、管理職が、教育委員会が、校区内の小学校で研究授業がある、同区の中学校で研究協議会があるから参加するよう教員の背中を押すだけで、教員は参加しやすくなります。 また、そのような機会を教育委員会が設定することも大切です。 このようなシステムが取られていない自治体、地域ではなかなか小中連携が進まないように思われます。

また、「連携したカリキュラム作成」と聞くと、大変なことのように思われますが、ここは、もっと簡単に考えてみるとよいと思います。 例えば、中・高等学校では、平成23年度から文部科学省が、「Can-Doリスト形式の学習到達目標」の作成を各教育委員会を通じて各校に促し、前述の「英語教育実施状況調査」の結果によると、中学校の約9割が作成をしています。 そこで、この「Can-Doリスト形式の学習到達目標」を小学校高学年2年間と中学校3年間の計5年間で作成してみることをお勧めします。 小学校では、学習指導要領5領域の目標から、5年生と6年生の学年目標を作成します。 そして、それを基に、教科書の各単元で扱われている題材や言語材料を基に、学期ごとにどのようなことができるような児童の姿を求めるかを表にまとめてみます。 それと、すでに中学校で作成されているそれとを見比べてみて調整をすることで、5年間の「Can-Doリスト形式の学習到達目標」となります。 まずは、やって見ることが大切です。 作成してみて、それを基に学期ごとにパフォーマンステストなどを通じて、修正を加えていくことになります。

「小中連携」を難しく考えず、これは児童生徒のためのものであり、生徒が「これ、小学校でもやってきたことだ、でも、さすが中学校だな、小学校のときよりも自分ができるようになってきた」と感じられるようにすることが、小中連携のゴールだと思います。 そのためには、小学校教員と中学校英語科教員とが、学習指導要領に記されたそれぞれの目標と学習内容の相違点と共通点を意識して指導することが大切だと考えます。 共通点は、「言語活動を通して」児童生徒に求められる資質・能力を身に付けさせることです。 そして、相違点は、学習指導要領の「知識及び技能」に係る目標に示されている通り、小学校外国語では「文字」「文構造」を扱う一方で、中学校外国語では「文字」を扱わず、「文法」を扱うことです。 また、小学校外国語では「読むこと」「書くこと」を扱いますが、それらの目標は、中学校外国語で求められているそれらについての目標とは大きく異なっており、小学校と中学校での「読むこと」「書くこと」の意図が違うことも、筆者は「相違点」だと捉えています。 これらのことを意識し、指導いただくだけで、指導の在り方が変わってくると思います。 ぜひ、児童生徒のために小中連携にお取り組みいただきたいと思います。