NITSニュース第172号 令和3年7月21日

事務職員の視点を学校組織と教育活動の改善に活かす

明星大学 常勤講師 神林寿幸

本稿では、「学校における働き方改革」の進展に向けて事務職員ができること、そのために学校に必要なことについて話題提供します。

「学校における働き方改革」は、2010年代後半以降に普及した比較的新しい言葉です。 しかしこれは学校組織や教育活動を改善することであり、過去にも同様の取り組みがありました。 例えば、事務職員の制度化です。 戦前、公立の義務教育諸学校(小学校)に事務職員は未配置でした。 公教育の発展とともに学校での庶務が増え、教員だけで対応することが難しくなりました。 学齢人口の増大に対応した学校組織をつくるために、戦後に学校教育法は事務職員を定めたのです(同法第37条等)。

「働き方改革」が課題である今の状況は、学校組織と教育活動を見直すタイミングの到来を物語っているのかもしれません。 このような中で、教員とは異なるアプローチで事務職員が活躍できることがあると思います。 教育活動を見直す場合、教員の関心は主に教育内容・方法の改善に向けられます。 教員という職業柄、これは自然なことです。

しかし、教育活動は多面的に分析・改善されることも大切です。 児童生徒への思いが強まり、教育に必要な経費が増えると、家庭の経済負担も大きくなります。 事務職員が補助教材費などの徴収金を削減した実践(栁澤靖明『学校徴収金は絶対に減らせます。』学事出版、2019年)もありますが、このような財務面から教育活動を見直すことができるのは、事務職員の強みです。 財務面からのアプローチは、これまで何げなく行われてきた教育活動、ひいては教職員の働き方の見直しにもつながるでしょう。 ほかにも、例えば、児童生徒や保護者に対して行うアンケートの分析に事務職員が参加することで、学校組織や教育活動の改善に向けた新奇なアイデアが出るかもしれません。

事務職員の専門性を学校組織と教育活動の改善に活かすためには、多様な教職員の意見を尊重できる学校づくりも重要です。 この点については、太平洋戦争における日本軍の作戦行動を分析した『失敗の本質』(戸部良一ほか著 中公文庫、1991年)が参考になります。 数年前、当時、教職員支援機構で研修プロデューサーをされていた先生に本書をご紹介いただき、私は本書に出会いました。 この『失敗の本質』は、自己革新能力のある組織の条件として、「不均衡の創造」や「異端・偶然との共存」を挙げます。 組織を変えるためには、組織内の多様性を認め、異端を許容し、偶然の発見を組織の意思決定に取り込むことが大切だというのです。 組織を動かす上で、構成員の大半が同じ方を向くことは重要ですが、それが行き過ぎると組織全体の視野が狭くなります。 これを防ぐために、少数の意見を取り込むことも必要です。

日本では学校の構成員の大半が教員で、事務職員は数的には少数です。 『失敗の本質』の知見を踏まえると、少数の事務職員の視点を取り入れることができる学校は、「働き方改革」、すなわち学校組織と教育内容の改善も進めることができると思います。 多様性が尊重される時代に、事務職員に限らず、多様な教職員の意見を尊重できる学校は、きっと教職員にとって働きやすい職場であり、児童生徒も安心して学べる学校であることでしょう。