NITSニュース第99号 令和元年8月30日

教員不足と学校現場

独立行政法人教職員支援機構 上席フェロー 百合田真樹人

学校現場で教員不足の実感が広がっています。 産休や育休にはいる教員の代わりがみつからないという話もよく耳にします。 教員不足といわれますが、現在のところ深刻なのは、非正規雇用教員(特にその半数を占める臨時的任用教員)が不足している問題です。 正規雇用教員と同じように学級担任や部活動指導などの学校現場の多岐にわたる業務を担う任期付きの常勤講師や教諭を、臨時的任用教員として確保することは、さらに困難になることが予想されます。

こうした現状を、教職のイメージ低下や定年を迎えた教員の大量退職にともなう一時的な現象に過ぎないと楽観視する認識もあります。 確かに、あまりにも悲観的な未来像ですが、少子化による児童生徒数の減少や学校統廃合による教員ニーズの減少、または景気悪化にともなう就職氷河期の再来による安定職としての教職回帰の可能性は否めません。 こうした未来像に基づくならば、現状のままでも教員不足は解消されると考えられるかもしれません。

ただし、教育が「望ましい未来」を建設するための社会的な手段だとすれば、こうした悲観的な未来像に現在の教員不足の課題解決を期待するのはあまりに無責任でしょう。 社会の多様化や複雑化をうけて、学校教育や教員に期待される役割は変化しており、現状の教員組織をそのままに維持できたと仮定しても、学校現場での教員不足が深刻化することを示唆するエビデンスは多くあります。 教員不足の課題を前にして、教職の魅力化や新卒教員の質の確保を求める現場の声は高まっています。

しかし先に示したように、現状の教員組織のままで教員不足の解消を図ることは難しく、教員の確保と継続的な職能支援のあり方を含め、学校組織のあり方にも構造的な変化が求められています。 低下した教職イメージの回復を図ることは、すでに教職にある人材を大切にするとともに、教職をライフワークとすることを難しくさせている学校現場や教員組織のあり方を見直さなくてはなりません。 こうした見直しは、政策現場にある関係者にとどまらず、学校管理職やそれぞれの教員がつくるコミュニティ(教員文化、さらに小さなところでは職員室や学年コミュニティ)にも求められます。

国際的に行われる調査研究は、これまでのあり方を見直し、どのような変化が必要なのかを検討するうえで有効なデータや資料を提供しています。 特に学校組織や教員の指導環境をめぐっては、OECDが5年ごとに実施し、日本が2013年から参加している国際教員指導環境調査(TALIS)が汎用性の高いデータを出しています。 6月中旬には、日本も参加した2018年の調査結果の一部が公開されています。 2013年調査は日本の教員の長時間労働が注目され、学校の働き方改革の議論の展開をみました。 しかし、5年後の調査結果は、教員の働き方に構造的な変化がなかったことを明らかにしています。

この結果を政策側や制度設計に問題があると結論することも可能です。 しかし、その結論が次の5年間で問題を解決するという可能性や保証はどれほどあるのでしょうか。 過去5年間の働き方改革は何だったのか、そして同じ時期になぜ学校現場には「ブラック」というイメージが定着したのでしょうか。 国際的な調査研究の結果をもとに、諸外国の学校組織や教員組織の様相との比較を通して新たな観点から課題をみつめ、取り組みを検討することが学校現場と教員集団とにも求められています。

NITSのウェブサイトでは教職の魅力化と教員の働き方改革のあり方を構造的に考えるための資料(平成30年度調査研究プロジェクト成果報告書)を公開しています。 こうしたデータやデータに基づくエビデンスを資料として共有し、それぞれの学校や教育委員会等で何ができるのか、何をしなくてはならないのか、どうありたいのかの議論を学校教育の現場からも始めてみてはいかがでしょうか。