アクティブ・ラーニング授業実践事例
学校名:千葉県立我孫子東高等学校
教科等:2年国語科(平成28年11月)
単元名:読書を広げる 「夢十夜」
表現に即して小説を読み味わう楽しさを日常の読書生活につなげたい
自分と結び付ける
互いの考えを比較する
自分の思いや考えと結び付ける
実践の背景
実践校は、卒業後、就職したり専門学校に進んだりする生徒が7割を越えることもあり、社会人として必要な知識や能力を身に付けることを目的としたキャリア教育に力を入れています。また、研究主題を「新たな未来を築くために、自ら力を育み(基礎学力)、自らの能力を引き出し(コミュニケーション能力)、主体的・協働的に学ぶ生徒の育成」とし、生徒の実態を踏まえたわかりやすい授業実践で、学習意欲の向上と基礎学力の定着を図ることを目標としています。
授業改善のアプローチ
本実践の生徒達は、日常的に読書経験が豊富ではなく、「小説を読む」ことに苦手意識をもっている生徒も3割を越えています。長い文章や、難解な部分・含蓄のある表現を含む文章を読むことに抵抗感を感じる生徒に対して、細部の表現や言葉にこだわりながら読むことを通して言葉の美しさや深さを発見し、それに感動しながら読み深めていくことの楽しさを味わわせていきたいと考えました。そこで、各自が小説のベストシーンを絵に表す活動を取り入れました。言葉からイメージした世界を視覚的に表現するという、異なる表現方法に変換することで、創造性を養いつつ、文や文章、言葉から離れることなく表現に即した読みが実現できると考えたからです。この言語活動に相応しい学習材として、色彩表現や幻想的な描写の多い「夢十夜」を選びました。どの場面(表現)をどんな意図で絵に表したかを互いに交流する場を設定し、自分と他者との見方、感じ方、考え方の違いからより豊かに読み味わい、小説を精読する楽しさや価値に気付かせ、さらに生徒の日常の読書生活へとつなげていきたいと考えました。
単元づくりのポイント
目標
- 文章に描かれた人物、情景、心情などを表現に即して読み味わっている。
【関心・意欲・態度】 - 小説全体の構成、主人公などの登場人物の人物像や心情の変化を、表現に即して的確に読み取ることができる。
【国語総合 C読むことウ】 - 小説が描こうとしたことについて、自分の考えを深めることができる。
【国語総合 C読むことエ】 - 語句の意味、用法を的確に理解し、語彙を豊かにするとともに、文体や修辞などの表現上の特色をとらえることができる。
【知識・理解】
展開
- 1
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- 「第一夜」を音読し、概略を理解するとともに、構成を把握する
- 2
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- 「第一夜」第一節の細分を分析・理解し「自分」と「女」とのやりとりを理解する
- 3
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- 「第一夜」第二節の「自分」の行為と心情について、第三節の「自分」の心情の変化と「百合」の出現について理解する。
- 4
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- 「第一夜」のベストシーンを絵で描いて発表し合い、場面の解釈を交流し合うことで教材の理解を深める。(本時)
- 5
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- 「第六夜」を音読し、概略を理解するとともに構成を把握し、「自分」の行為とその結果について理解する
- 6
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- 「第六夜」の全体のまとめを行い、自己批判が時代批判にまでなっていることをつかむ。
- 7
-
- 「第一夜」と「第六夜」の構造図をまとめ、共通点や内容を把握しする
- 作品の読解や構造の分析を踏まえ、模倣文を作成する
- 8
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- 創作した模倣文を発表し、交流を通して相互評価する・単
- 元の振り返りを行い、気付いたことなどをまとめる
「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善
本時のねらい
自分達が描いた絵と文章の中の言葉や表現とを結びつけ、どの場面(表現)をどんな意図で絵に表したかを交流しながら、作品に対する互いの見方、感じ方、考え方のちがいに気付き、内容の理解を深めていくことができるようにする。
授業場面より
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①学習内容の確認を行う
本時の学習内容を確認している場面です。
教師は、本時の学習はベストシーンを描いた絵の交流を行うことを確認した上で、「これが何につながると思うか?」「どんな目的で行うと思うか?」という問いかけを行いました。本時のねらいを明確にするとともに、文字表現を視覚表現に変換するというこの言語活動が、どのような力を身に付けることにつながるのかを生徒と共に確認していきました。
生徒からは、「(小説の)イメージが広がる」「(内容が)よく分かるようになる」という回答が聞かれ、「ベストシーンの絵を交流し合うことで、第一夜の内容を理解しよう」という学習課題を教師と一緒に作っていきました。これによって、全体の学習課題は生徒一人一人の個の課題ともなり、見通しを持って主体的に学ぶ姿につながりました。 -
②「ベストシーン」の絵を交流する
生徒たちが描いた『夢十夜』のベストシーンを交流している場面です。
この授業は選択授業のため少人数であったことや生徒の実態を踏まえ、教師をファシリテーターとしてクラスを一つのグループと見立てた交流の形をとりました。絵を示し「これはどこのシーンだろう」「どの部分(表現や言葉)に注目しているのか」を問い、本文の叙述に戻って考えるように促していきました。
生徒は、絵に描かれたシーンの記述を何度も繰り返して目で追ったり、音読を繰り返したりしました。ある生徒が、主人公が苔の上に座って墓を見つめながら百年待つ場面を取り上げ、本文の叙述にはない「月」を描き夜のシーンとして絵に表しました。「太陽の叙述しかないのになぜ月を描いたの?」「主人公は夜も待っていたからかな?」などの疑問の声があがります。「(本文にある)昼のシーンだけでなく、敢えて夜のシーンを思い描くことで、百年待つ、という時間の経過とその長さが実感できた(からベストシーンとして描いた)」という作者の意図を知ると、「そうなんだ」「すごい」という感嘆の声があがりました。何度も、細かく、テキストと対峙し、自分とは異なる価値に触れて感動する、という学びが成立していました。 -
③読みを深める
教師が、自ら描いた絵を示している場面です。生徒が絵を描く場面(叙述)として選ばなかったものの、作品を理解する上で交流を通して読み深めたいと判断した場面(叙述)について、教師自身が絵を描き、その叙述について交流することを通して内容理解を補っていきました。
「抱き上げて土の上へ置くうちに、自分の胸と手が少し暖かくなってきた」の記述から、主人公が微笑みを浮かべた絵を描き、その意図を生徒に問いかけた。
生徒は、前後の叙述を繰り返し読み、死の場面における主人公の行動と心情を考えながら「自分がしてあげたことへの達成感があったんだろう」「だから胸と手が暖かく感じたのではないか」と、発言を重ねていきながら、理解を深めていくことができました。 -
④振り返りを行う
本時の振り返りの場面です。
教師は、本時のこの学習を通して「何を発見したか」「どんなことに気付いたか」、また学習課題に対して「自分の内容理解がどう変わったか」という振り返りの視点を明確にしていきました。
ある生徒は「絵を描くことで、そのシーンをより強くイメージするきっかけになった。皆の絵を見て『このシーンをこう表現するのか』『こういう見方もできるのか』など、様々な感想を持つことができた。」と振り返りました。さらに、「次の学習(第六夜)も絵に描いて(読み)深めたい」という感想を書く生徒もいました。教師がねらいとしたこの学習活動の価値や内容理解につながる学び、また次への意欲につながる学びが実現できました。
報告者:研修協力員 伊坂