アクティブ・ラーニング授業実践事例
学校名:福岡県立北筑高等学校
教科等:1年芸術科(音楽Ⅰ)(平成29年7月)
題材名:日本歌謡の世界~メロディーと強弱が紡ぎだす情景を感じとって歌おう~
楽譜から歌詞の意味や作者の情景・心情を考察し、歌で表現する力を育成したい
興味や関心を高める
思考を表現に置き換える
新たなものを創り上げる
実践の背景
- 実践校は、普通科と英語科を併設する高等学校です。
- 思考力を伸ばし、判断力・表現力を向上させ、自分の考えを論理的に説明できる生徒を育てたいと考え、研究テーマを「論理的に説明する力を育む授業改善の研究」と定めています。
- ルーブリックをもとにした振り返りを、学校全体で取り入れています。
授業改善のアプローチ
- 「社会人基礎力」(経済産業省)をベースに汎用的なルーブリックを作成し、単元、題材や生徒の実態に応じてその中から評価規準を抽出し、振り返りに活用しています。本題材では、「考え抜く力」、「発信力」、「傾聴力」を評価規準としています。
- 多角的な思考を働かせるため、生徒の興味・関心や他教科の学習状況などを考慮して、題材を決定しました。
- 基本的な発声法を取り入れることに加え、歌詞や強弱記号を知覚し、それらの働きが生みだす情景や作者の心情を感受しながら歌うことを通して、表現能力を高めようとしています。
題材づくりのポイント
目標
- 歌詞と強弱記号の関わりに関心を持ち、情景や心情をイメージする学習に主体的に取り組んでいる。
【音楽への関心・意欲・態度】 - 曲の強弱が生み出す雰囲気を知覚し、作者の意図を感受しながら、どのように歌うかについて表現意図を持っている。
【音楽表現の創意工夫】 - 意思を持って歌唱表現をするために必要な発音や表現・技能を身につけ、歌うことができる。
【音楽表現の技能】
展開
- 1 歌詞とメロディー・曲の強弱の関わりについて関心・意欲を高める。
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- 音取りをして、正しく歌う。
- 既習曲「浜辺の歌」を歌い、曲調の違いに着目し、情景のイメージを確認する。
- 2 楽曲に必要な発音や、そのための発声練習を行い、明確な発音で歌えるようにする。
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- 発音に重点を置き「椰子の実」を朗読する。
- ゆっくりのテンポから発音が滑らかにできるよう考える。
- 3 歌詞の強弱を知覚し、それによって情景や心情の描写の変化を感受しながら歌う。(本時)
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- 楽器を用いて強弱を表現し、楽曲の情景や心情を考察する。
- 歌詞と強弱記号を考慮し、発音や抑揚を工夫して歌う。
「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善
本時のねらい
歌詞がメロディーや強弱記号とどのように関わっているのかについて関心を持ち、歌詞の内容や楽曲の背景、作者の心情などと関連付けて、表現意図を持ち歌う。
授業場面より
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①発声練習と本時の見通しをもつ
授業の導入でペアで肩を叩いたり、発声をしながら背中を叩いたりする発声練習を行います。心身を解きほぐすアクティビティを取り入れることで、学びへの導入を促進します。そして、教師は「曲の最後にあるいずれの日にか国にかえらんという歌詞はどのような意味なのかを楽譜から読み解く」という本時の問いを投げかけます。現時点での考えをワークシートに記入した後、生徒は作者の思いを歌でどのように表現すればよいかというゴールに向け、本時の学習活動に主体的に取り組み始めました。
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②強弱記号に着目する
生徒は「椰子の実」の楽譜に繰り返し登場する強弱記号の<(クレッシェンド)、>(デクレッシェンド)が寄せては返す波をイメージしていることに気付きます。そして、グループ全員で波のような音の出る楽器を動かすことで、強弱記号に着目するようになり、歌詞の意味を理解するための生徒の対話が促進されました。生徒は目をつぶって音を聞きながら、浜辺の時刻や風景を想像したり、楽器の音を横に実際に歩いてみることで想像を膨らませるなど、作者の心情や情景について思考を続けました。
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③話合いを通して、歌詞の意味を確認する
教師は「楽譜で曲の構成を考えてみよう」と生徒に呼びかけます。生徒は他の強弱記号にも着目し、mf(メゾフォルテ)で曲が始まり、「国に帰らん」がp(ピアノ)、後奏にf(フォルテ)があることに気付きます。「最後の部分がpは悲しい。帰りたいという思いならfでは」「後奏のfは帰れないという悲観的な気持ちを強調するため」という本時の核心をつく意見を述べます。多様な視点からの考えがつながり、この歌詞の意味は「帰りたいけれど帰れないのでは」という不安な思いと判断し、全員が同意をしました。生徒は「楽譜に注目したが、強弱記号にここまで深い意味があるとは」と驚いていました。
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④歌詞の意味・心情を理解し、歌で表現する
生徒は「不安な思い」を歌で表現する際、弱く歌う以外にも歌い方の工夫ができるのではという新たな課題を見出します。教師は、自らの歌で「不安な思い」の歌い方を表現し、そのポイントを生徒が考える時間を設定します。生徒は「いずれの日にか」の「か」の子音を長く歌う技能を理解し、情景を思い浮かべながら、何度も歌いました。そして授業開始時とは明らかに異なる不安な気持ちを表現した新しい歌声が響き渡りました。ある生徒は、「文法で考えたが、楽譜をよく見ることで理解できた。音楽の授業は強弱記号や旋律や歌詞の意味などを考えるため、頭を使う」と本時の学習を振り返りました。
報告者:研修協力員 織田