アクティブ・ラーニング授業実践事例
学校名:北海道伊達緑丘高等学校
教科等:2年地理歴史科(日本史A)(平成29年9月)
単元名:日清・日露戦争-アジアの近代-
世界史Aでの学びと関連付けながら、歴史的事象を多面的・多角的に考察できる力を育成したい
興味や関心を高める
協働して課題解決する
知識・技能を活用する
実践の背景
- 実践校は、地理歴史科の科目相互の関連を図った授業実践の研究に取り組んでおり、社会的事象の意味や意義、概念等を関連付けて総合的に捉えさせることで、学習意欲や学力を向上させることができると考えています。
- 特に思考力・判断力・表現力の育成を目指す教育活動においては、生徒の思考を促す問いの工夫や、成就感や達成感を味わわせるための評価の工夫についての検証を進めています。
授業改善のアプローチ
- 実践校では、新科目の「歴史総合」を意識して、世界史と日本史の科目間連携を図り、生徒が常に世界の中の日本、日本と世界のつながり等を意識した授業づくりを教科全体で取り組んでいます。
- 単元の中心となる問いを設定するとともに、1時間の授業の中で中心的に考える問いを設定し、問いの構造化を図っています。
- 〇〇とは何かといった事実に関する問い、どのように変化したかといった推移に関する問い、何をもたらしたかといった影響に関する問い、賛成か反対かといった選択・判断に関する問いなど、質の異なる問いを学習場面に応じて準備し、問いかけることで、生徒の思考を促します。
単元づくりのポイント
目標
- 日清・日露戦争前後の国際環境の推移や国内社会の変化に対する関心と課題意識を高め、意欲的に追究している。
【関心・意欲・態度】 - 日清・日露戦争前後の国際環境の推移や国内社会の変化から課題を見いだし、多面的・多角的に考察するとともに、その過程や結果を適切に表現することができる。
【思考・判断・表現】 - 日清・日露戦争前後の国際環境の推移や国内社会の変化に関する諸資料を収集し、有用な情報を適切に選択し、情報を読み取ったり、図表にまとめたりすることができる。
【資料活用の技能】 - 日清・日露戦争前後の国際環境の推移や国内社会の変化についての基本的な事柄を理解することができる。
【知識・理解】
展開
全6時間
1 日清・日露戦争を経て国際環境はどのように変化したか 【本時】
2 なぜ、清や朝鮮の改革は成功しなかったのか
3 日本と清は連帯すべきか?対決すべきか?
4 日露開戦に賛成か?反対か?
5 日露戦争の結果を国際世論はどのように見ていたか
6 日本の帝国主義化は、アジアに何をもたらしたか
「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善
本時のねらい
- 日清・日露戦争に関する風刺画から、日本とアジア諸国、列強との関係の変化の概要について理解することができる。
- 日本の「帝国主義化」に関する課題意識を高め、意欲的に追究しようとしている。
授業場面より
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①既習事項を振り返り、捉え直す
本単元で扱う時代を考える際に、「帝国主義」がキーワードの一つになります。よって、世界史でも学んでいるこの言葉をまず振り返ります。振り返り、捉え直すことで、「帝国主義」の意味が明確になり、歴史的事象を考察する際の手掛かりとすることができます。授業の最初に、生徒は、調べてきた内容を踏まえ、世界史の資料集を基にした列強及び清の略年表と地図等をまとめたプリントを確認し、気付いたことを書き出していきます。その後、ペアで気付いたことや調べてきたことを伝え合います。伝え合う場面では、「帝国主義とは、アメリカ・イギリスといった欧米の国々が、アフリカやアジアなどに植民地をつくったり、鉄道を敷く権利をとったりしていくことだ」といったことを発言していました。生徒は、帝国主義とは何かを考え、その特徴を把握することができていました。
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②問いに答える手がかりを得る
生徒は、帝国主義について考える際に用いた資料で扱った年代に、日本ではどのようなことが起きていたか、教師の問いかけから考えていきます。その過程で出てきた疑問を基に、本単元の問いを「日清・日露戦争は何をもたらしたのか~日本の『帝国主義化』を支持する?支持しない?~」と設定しました。本時では、日本の「帝国主義化」について、現時点での自分なりの考えをまとめていきます。そのために、まずは、日清戦争前後、日露戦争前後の4枚の風刺画をから情報を獲得します。プリント内の「なぜ風刺画に〇〇国が登場しているのか」などのヒントを参考に、自分の担当の風刺画を読み取っていきました。そうすることで、生徒は、「イギリスやアメリカをバックに日本が、ロシアに向かっている」など班で話し合う時に提供する情報を得ることができました。
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③日清・日露戦争後の日本の変化について話し合う
教師は、話し合う前に「日本がどう変わっていったのか」を中心にまとめるとよいと伝えます。そうすることで、生徒は、各自が読み取った細かな内容を伝えることに時間をかけすぎずに、お互いが伝え合った内容を基に考えをまとめることに力点を置いて話し合いを進めることができました。風刺画を資料としていたため、読み取り方も多様で、お互いの解釈を活発に伝える姿が見られました。対立や友好関係だけでなく、「少年として描かれている日本は国際的な立場が弱かったのでは」と風刺画から当時の日本が置かれていた状況を読み取る生徒や、「フランス人として描かれている人が渋い表情をしているのは、関係の深いロシアが日本に敗れているからだ」と、世界史で学んだ知識と結び付けて考える生徒がいました。
班で話し合った内容を他班に行って発表する時間では、日清戦争・日露戦争で日本が勝利した事実だけでなく、日本の国際的地位が向上したことや不平等条約改正に影響を与えたこと等を発表していました。 -
④学習を次時につなげる
教師は、スライドに4枚の風刺画を提示し、日清・日露戦争を経て日本がどのように変わっていったのか、授業の冒頭で扱った「帝国主義」を踏まえながら、概観するように促します。そして、「どちらの判断が正しいということはない」ということを強調し、日本の「帝国主義化」を支持するか、支持しないかについて、現時点でどのように考えるか記述するように促します。その際に理由を含めて書くことも強調します。そうすることで、生徒は安心して支持不支持を判断し、判断した根拠を意識しながらまとめていきました。「戦争は嫌だけど、他国に支配されるのも嫌なので、支持する」「軍事力を持つようになると、欧米のように他国を侵略するようになる気がするので、支持しない」など、様々な意見が出ていました。支持は約4割、不支持は約6割でした。最後の振り返りで文字にすることで、生徒は、自身が判断した根拠の不十分さに気付き、以後の授業の学びで根拠を確かなものとし、あらためて判断したいという思いが芽生えました。
報告者:研修協力員 山本