アクティブ・ラーニング授業実践事例
学校名:徳島県立城北高等学校
教科等:2年国語科(平成29年10月)
単元名:人生について自分の考えを深める(小説『こころ』より)
自己を対象化して捉える力を育みたい
粘り強く取り組む
協働して課題解決する
思考して問い続ける
実践の背景
- 「心 動く 学び 城北」。本年度、このキャッチフレーズの入ったポスターが校舎のあちらこちらに貼り出されました。頭だけでもなく、体だけでもなく、心までもが揺さぶられる「学び」を、教員同士で、生徒同士で、教員と生徒で実現していこうとする志が共有されている学校です。
- 実践校は徳島県教育委員会の「新たな学びに関する教員の資質能力向上のためのプロジェクト」の協力校としての指定を受け、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善に取り組んでいます。また、本年度は徳島県立総合教育センターの「進化する教室イノベーション事業」の指定を受け、8月末にすべての普通教室の電子黒板機能付きのプロジェクターが設置されました。2学期より各教科の授業でICT活用が本格化しています。
- 公開授業後の研究協議会では、ワークショップ型の演習が実施されました。参観者は「①生徒の学ぶ姿のよかった点 ②それが実現された要因(教員の手立て・ICTの活用)」をワークシートに記述しておき、協議会で思考ツール「Yチャート(主体的な学び・対話的な学び・深い学び」で分類・整理するなど、参加者も積極的に参加し自校での授業改善に向けて深く思考する姿が見られました。
授業改善のアプローチ
- プロジェクターへ詩を拡大提示し、教師が詩を板書する時間を短縮する
導入したばかりの電子黒板機能付きのプロジェクターの活用です。従来は、教師が黒板に詩を書いて解説をしていた場面ですが、配布したプリントと同じものをプロジェクターに映し、電子ペンを使ってポイントを解説しました。詩を板書する時間が短縮され、生徒が思考する時間を長く確保できました。 - グループのメンバーに異なる教材(章)を配布し、協働的に思考する必然性を生み出す
生徒が『こころ(夏目漱石)』に登場する人物の関係性を主体的に読み取り、協働的に思考する必然性を生み出そうとした工夫です。次のような手続きで学習が進められました。
① 4人グループそれぞれに異なる「章」が配布され、各自で読み進める。
② 4人グループで簡単に解釈を伝え合い、連続する4章分のあらすじをつかむ。
③ 同じ章を読み進めた生徒同士で新しいグループを作る。
④ 登場人物3名のYチャートを作り、各自が読み取った内容をホワイトボードで整理する。 - ルーブリック評価を促し、自己を対象化して振り返ることができるようにする
「書く(予習)」、「話す(態度)」、「話す(内容)」、「聴く(態度)」、「考える(深化)」の5項目について4つのレベルで自己評価を促し、自己を対象化して捉える力を育もうとしています。
単元づくりのポイント
目標
- 小説の提起する問題を自己の問題に引き付けて考えることによって、人生や登場人物の心情について自分の考えを深めようとする。
【関心・意欲・態度】 - 小説の提起する問題を自己の問題に引き付けて考えることによって、人生や登場人物の心情について自分の考えを深める。
【読む能力】 - 文章に用いられてる語句の意味を正確に理解する。
【知識・理解】
展開
第1次(1時間)
・萩原朔太郎『こころ』を参考にして創作した「こころ」を題とした詩を発表し合う。
・テクストの読解によってまとめた小説『こころ(夏目漱石)』の登場人物の心情や関係への理解を深める。
第2次(7時間)
・登場人物に関する心情表現に着目して、内容の把握・理解を深める。
第3次(1時間)
・「個人を規定する時代の精神」について考え、「個」を自己相対化して、表現する。
「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善
本時のねらい
こころを題とした創作や小説『こころ』の登場人物の心情や関係について話し合い、小説『こころ』の提起する問題を理解するための土台をつくる。
授業場面より
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①「こころ」を表現するって難しい・・・
萩原朔太郎『こころ』を参考に創作してきた詩をグループ内で紹介し合う場面です。ある生徒は「こころ」を宇宙にたとえ、「幾千もの星の狭間を前も後ろも分からず/ただいたずらにたゆたうのである」と表現しました。互いの創作詩を味わい、「こころ」を表現する難しさと向き合ったところで、教師は『こころ』の解説を始めました。スクリーンに詩を投影し、電子ペンでポイントを書き込みながら進めます。生徒は自分の創作詩と比較して、朔太郎の「こころ」に対する捉えを理解していきました。
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②漱石はどんな「こころ」を書いたのかな?
教科書には小説『こころ(夏目漱石)』が掲載されています。教師は、生徒が小説『こころ』の人物関係を主体的に読み取れるようにと考え、教科書の掲載部分につながる10の章を短冊状の用紙に印刷し、1章ずつ配付しました。グループの仲間はそれぞれ異なる章を担当します。生徒は配付された章と教科書の掲載部分とを比較しながら、登場人物相互の関係性が読み取れる言葉や登場人物「私」の心情表現を読み取れる描写に線を引くなどして粘り強く読み取りました。
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③この章のあらすじを整理しよう!
同じ章を選んだ仲間で集まり、章のあらすじをまとめていく場面です。教師は思考ツール(Yチャート)でまとめるように促すことで、生徒が登場人物である「私・K・お嬢さん」相互の関係性を構造化して理解できるようにしました。生徒は人物関係や心情表現を読み取れる描写を出し合いながら、ホワイトボードにまとめていきます。読む(インプット)、話す・書く(アウトプット)を繰り返しながら仲間とともに協働的に取り組むことで、担当する章のあらすじを理解することができました。
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④なるほど、そういうストーリーなんだ!
全体発表の場面です。教師は撮影済みのホワイトボードのデータをプロジェクターに投影し、生徒はスクリーン上に電子ペンで書き込みながら説明しました。バラバラだった章のあらすじがつながっていきます。また、教師は「書く(予習)」、「話す(態度)」、「話す(内容)」、「聴く(態度)」、「考える(深化)」の5項目について4つのレベルで自己評価を促しました。このような機会を設けることで、生徒は自己を対象化して捉える力を育むことにつながると考えられます。
報告者:研修協力員 木下