アクティブ・ラーニング授業実践事例

学校名:岡山県立烏城高等学校
教科等:2年化学基礎(平成29年6月)
単元名:物質の分離

自己肯定感を高め、科学的に探究する姿を育成したい

  • 粘り強く取り組む
  • 協働して課題解決する
  • 知識・技能を活用する

実践の背景

  • 実践校は創立74年となる歴史と伝統を有する定時制高校です。現在は夜間部と昼間部を設置しており、自分の興味や関心に応じて多様な選択科目が履修できる単位制の高校です。3年間で卒業することもできます。
  • 多様な特性のある生徒を受け入れ、学習機会を保障するとともに集団性を向上させ、社会的自立に向けた力(生きる力)を獲得させることをミッションとしており、そのために以下の4点に重点を置いています。
    ・ 基礎学力の定着・向上を実現できる学校
    ・ 基本的生活習慣と規範意識の育成をめざす学校
    ・ 具体的な将来の目標設定を支援する学校
    ・ 教職員が組織的に課題解決に向けて動く学校

授業改善のアプローチ

  • 本科目は、昼間部2年生を中心に、夜間部もあわせ、2,3,4年生がともに選択している科目です。様々な集団からの選択科目なので集団としての帰属意識は低く、選択者は週2単位(回)の授業でのみ顔を合わせる者もいます。
  • 背景は異なりますが、様々な困難を抱えて入学してきた生徒が多くいます。これらの生徒達が授業を通して学びあい、人間関係に自信をつけてほしいと思い実践を重ねています。
  • 授業者は、人間関係が落ち着いてきた時期を見極め、ゆるやかな学び合いの時間を繰り返し設定しています。この時間により、相互の「コミュニケーション力」や「自己肯定感」の向上につながればと考えています。
  • 授業者は日頃より、誰もが「分からない」と言い合える空間、粘り強く「自己内対話」ができる空間の実現を目指しています。また、誰もが学習のステージに上がれるように、前時の学びが本時の学びにつながるような学習課題を設定すると共に、「導入」では、課題の共有に時間をかけることや、「展開」では自分で考え、表現する時間を確保することなどを意識しています。
  • 理科の授業においては、観察、実験の重要性、さらには探究の過程の重要性がうたわれています。しかし、多くの観察、実験において、教科書やワークシート等で指示された手順通りに行う観察、実験が中心でした。今回、これまで学習した物質の分離の実験操作等、既習の知識・技能を活用して実験計画を立案する場面を単元の終末に設定することで、探究の過程について考え、その過程を体得できればと思い本時を設定しました。

単元づくりのポイント

目標

  • 物質の成分や構成元素について、観察・実験などを通して意欲的に探究することができる。
    【関心・意欲・態度】
  • 物質の成分や構成元素に関する観察・実験を行い、根拠立てて考察を行うことができる。
    【思考・判断・表現】
  • 物質の成分や構成元素に関する観察・実験を行い、基本操作を習得するとともに、それらの過程や結果を的確に記録することができる。
    【観察・実験の技能】
  • 単体や化合物、混合物について理解するとともに、物質を化学的に探究する方法を理解することができる。 
    【知識・理解】

展開

物質の成分(全11時間)

1

純物質と混合物

2〜3

ろ過について、泥水の分離

4〜5

蒸溜について、ワインの蒸留

6〜7

再結晶、昇華法、抽出について

8

クロマトグラフィーについて

9

それぞれの分離方法の原理について

10

しょう油から食塩を取り出す実験計画の作成(本時)

11

しょう油から食塩を取り出す実験並びに食塩の検証について

「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善

本時のねらい

  • 仮説を基に、実験の見通しを立てることができる。
    【思考・判断・表現】
  • 実験の各操作の意味を理解し説明することができる。
    【観察・実験の技能】

授業場面より

  • ①課題の共有

    課題の共有画像

    授業者は、しょう油を提示しながら、「何からできている?」と問いかけます。この疑問は、物質の成分を学習する単元の本質の問いでもあります。
      生徒は、生活経験を基に大豆や食塩などと答えていきます。教師が成分表示を示すことにより、その発言の裏打ちとなる根拠が確かになっていきます。その後、その主な成分(大豆、小麦、食塩)を、有機物は燃える、無機物は燃えないという既習の知識に基づいて整理します。この整理が、この後に行う実験計画の立案においても活用される知識となります。
      これらの確認の後に、「しょう油の中から食塩を分離するにはどうすればいいだろうか」という本日の課題が提示されました。

  • ②成分の性質を考える

    成分の性質を考える画像

    「食塩は、高温に熱しても蒸発しにくく、水に溶けやすい。しょう油を加熱して、他の成分が灰になるまでよく焼けば、残った灰から食塩をろ過して取り出すことが出来るだろう。」という仮説を提示します。
      生徒は提示された仮説について、段階を踏んで考えられるように設問を工夫したワークシートを活用し、その仮説の意味や理由を考えていきます。
      ここで授業者は、「個人思考」の時間を取ります。その時生徒に「どのくらいの時間が必要か?」と直接問います。生徒は、じっくり考えるために8分必要と答えました。このように考える時間についても、生徒が主体性を持つよう促します。
      早く考えがまとまった生徒は、教師用机で授業者に説明します。授業者は、説明が不十分な場合は、質問を重ねます。生徒は質問に答えながら内容を補います。この手立てにより自信を持った生徒は、ミニティーチャーとしてゆるやかな学び合いがスタートしました。

  • ③実験の手順を考える

    実験の手順を考える画像

    いよいよ、実験の手順(実験計画)を考える場面です。ここまでで考えてきた主な成分の性質や仮説と、既習の物質の分離の手順とを組み合わせて考えていきます。授業者は、なぜ、その段階でその操作をするのか、その理由を自分の言葉で書くよう伝えます。
      考えがまとまった生徒は授業者との確認に臨みます。授業者との確認で自信を持った生徒は、ミニティ-チャーとなり、学び合いの先頭に立ち、互いに学び合っていきます。「どうして?」「よく分からない」という言葉に対して、少し表現を変え説明を繰り返す中で「なるほど、よく分かったわ、ありがとう」といった声が教室内の至る所で出ていました。両者が粘り強く分かるまで協働して取り組む、ゆるやかな学び合いを通して「自己肯定感」や「コミュニケーション能力」の育成が図られています。また、既習の知識を、具体的な場面の中で活用することで、理解もさらに深まり知識が定着していく場面でもあります。

  • ④振り返る

    振り返る画像

    本時の学びを文章で記述しながら振り返ります。例えば、「物質の分離においては、各種操作の組合せが大切で、その順番により、分離が進むことが分かった」という内容に関する振り返りの記述がありました。自分の言葉で考えを表現する中で、本時の意味を深く理解したことが分かります。
      また「説明できる力を身に付けたい!」という行動に関する振り返りの記述もありました。この生徒は、自分の考えを伝える時に、なかなか納得してもらえず、何度も表現を変えながら伝えようとしていた生徒です。この「説明を伝えたい」という記述は、自らの力を伸ばしたいという気持ちの現れであると考えます。

報告者:研修協力員  山田