アクティブ・ラーニング授業実践事例

学校名:由利本荘市立西目中学校
教科等:3年社会科(平成29年6月)
単元名:第2章 個人の尊重と日本国憲法
              2節 人権と共生社会

社会的な問題の原因や現状を踏まえ、克服したり、解決したりするための策を多面的・多角的に考察する力を育成したい

  • 自分と結び付ける自分と結び付ける
  • 互いの考えを比較する互いの考えを比較する
  • 思考して問い続ける思考して問い続ける

実践の背景

  • 実践校は「立志の学校」です。高い志を持ち、将来に渡って力強く生き抜く人間を育てることを理念としています。また、コミュニティ・スクールとして、地域とともに学校づくりを進めています。
  • 開発実践フィールド校として、全職員でアクティブ・ラーニングの視点からの授業改善に取り組む過程を、県教育委員会・市教育委員会・県総合教育センターと連携し、推進地域に公開をしながら進めています。
  • 学校で育てたい資質・能力を全職員で話し合い、それに向けて各教科で具体的な取組を積み重ね、取組を日常化シートに教師の手立てと子供の変容について記入し、共有、検証しながら研究を進めています。

授業改善のアプローチ

本単元では、日本国憲法の基本的人権の尊重を中心に、人権についての考察を深めていきます。本授業では基本的人権として学習した平等権、社会権、参政権などを基盤として、各人の人権を守るために法があり、法に基づいて政治を進めることが基本的人権の保障につながることを学んでいきます。授業を構築する際に留意したことは、基本的人権について、それぞれの権利を個別ばらばらに学習しただけでは、断片的な知識の獲得で終わってしまうということです。そこで、既習の基本的人権の各権利の視点を活用して身近な環境の事象を捉え直し、その問題点や改善点について互いの考えを比較したり、関連付けたりする学習を通して、社会的な問題の原因や現状を踏まえ、克服したり、解決したりするための策を多面的・多角的に考察する力を育成したいと考え、授業を構築しました。

単元づくりのポイント

目標

  • 日本国憲法で人権の尊重が定められ、人権を守る取組が行われていることに関心をもち、その取組に関する成果や課題を意欲的に追究しようとしている。
    【社会的事象への関心・意欲・態度】
  • 日本国憲法に定められている人権の尊重の視点から、共生社会を目指す上での課題や解決策を「効率」「公正」の面から具体的に考察し、表現することができる。
    【社会的な思考・判断・表現】
  • 共生社会を実現するための取組や課題を、人権の精神に基づき、資料から読み取ったり、図や表にまとめたりすることができる。
    【資料活用の技能】
  • 日本国憲法に定められている人権の尊重の視点から、社会生活の様々な場面において人権を守るための取組がなされ、共生社会を目指して努力していくことの重要性を理解することができる。
    【社会的事象についての知識・理解】

展開

1
  • 日本国憲法の定める人権保障について調べる。
  • 基本的人権が保障されている場面を日常生活から見い出す。
2
  • 資料を通じて差別問題の歴史的背景や現状をまとめる。
  • 差別がある社会を問題視し、その解決に向けて自分にできることを話し合う。
3
  • 日本国憲法に定められた自由権について調べ、認められている権利を理解する。
  • 自由権が必要な理由を具体的な事例から考察し、理解する。
4
  • 日本国憲法に定められた社会権について調べ、認められている権利を理解する。
  • 社会権が必要な理由を具体的な事例から考察し、理解する。
5
  • 日本における差別問題とその歴史や現状を調べ、まとめる。
6
  • 人権の保障と、参政権と請求権が結び付いている理由を具体的な事例を取り上げて考察する。
7
  • 地域の写真やパンフレットなどから共生社会を目指す上での問題を見い出す。
  • 問題に対し、「公正」の観点から解決策を考察する。(本時)
8
  • 公共の福祉による個人の人権が制限される場合について具体的な事例を取り上げて考察する。
  • 国民の義務について、その内容を理解する。

「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善

本時のねらい

基本的人権の尊重の視点から、平等で自由な共生社会を目指し、その実現に向けての解決策を考察することができる。

授業場面より

  • ①学習の見通しを持つ

    学習の見通しを持つ画像

    教師は、社会的不平等に関する世論調査の結果を提示し、生徒が、既習の基本的人権の各権利の視点から考えることができるように話合いをコーディネイトしていきます。また、生徒に事前に実施した社会的不平等に関するアンケートを提示し、その結果も世論調査と比較して考えられるようにしていきます。このような教師の支援が、「日本国憲法で基本的人権の保障が定められているのに、なぜ不平等だと感じる人がいるのか」という生徒の問いを追究していく主体的な学びにつながりました。

  • ②複数の資料を活用し、問題点を見い出す

    複数の資料を活用し、問題点を見い出す画像

    複数の資料を活用し、問題点を見い出す場面です。教師は、身近な地域の環境に基本的人権の保障が反映されたり、実現されたりしているのかについて考察することができる資料を準備するとともに、生徒が自由に考えを交流できるよう学習形態を工夫しています。その際、付箋を活用し、自分の考えや他者の意見を可視化し、比較、検討しやすくしていきます。このような支援が、地域の写真やパンフレットなどを活用し、友達と意見を交流しながら、自分たちの暮らす地域は基本的人権の保障の考え方に基づいているかどうかについて多面的、多角的に考察していこうとする姿につながりました。

  • ③解決策や改善策を出し、練り合う

    解決策や改善策を出し、練り合う画像

    交流して考えたことについて解決策や改善策を出し合い、練り合う場面です。教師は、情意面での啓発活動の必要性を提案するだけにならないよう、憲法のどの権利を根拠として、「どんな立場の人にとって」「どうあればよいか」という考察の視点を提示していきます。また、付箋を活用して、それぞれの意見をつないだり、問い返しをしたり、意味付けをしたりしながら、策の練り合いができるようにしていきます。このような教師の支援が、「歩道橋を誰もが安心して便利に使うには、階段ではなく、エレベーター、またはスロープなどをつければよいのではないか。」「時刻表などの表記がすべて日本語であるものは、外国人の立場からすると、英語などの他の言語での案内もあったほうがよいのではないか。」など、見い出した課題について、互いの意見を比較したり、関連付けたりしながら、社会的事実を多面的・多角的に考察する姿につながりました。

  • ④学びを振り返る

    学びを振り返る画像

    学びを振り返る場面です。生徒の振り返りには、「憲法に基本的人権の尊重が示されていますが、その権利が生活に反映されているとは言いきれず、それぞれの立場の人が十分に尊重されている訳ではないと感じました。だから、今後も、誰もが平等に安心して暮らしていける社会を作るための取組を続けていかなくてはならないと考えています。」ということが記述されていました。この記述から、生徒が、基本的人権の尊重の視点から、平等で自由な共生社会を目指し、その実現に向けての解決策を考察する学び合いを通して、共生社会の実現のため、地域の一員として自分にできることを考えていこうと変容してきていることが分析できました。

報告者:研修協力員  稲岡