理事長あいさつ

独立行政法人教職員支援機構理事長
荒瀬 克己

学習指導要領は「前文」において、「教育は、教育基本法第1条に定めるとおり、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期すという目的のもと」、第2条の目標を達成しなければならないとした上で、「これからの学校には、こうした教育の目的及び目標の達成を目指しつつ、一人一人の児童が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。このために必要な教育の在り方を具体化するのが、各学校において教育の内容等を組織的かつ計画的に組み立てた教育課程である」と述べています。

これは小学校学習指導要領からの引用ですが、中学校、高等学校では「児童」が「生徒」に替わるだけで内容は同じで、特別支援学校においても同様です。また、幼稚園教育要領にも同趣旨のものが示されています。

各学校において一人一人の子供が、「自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにする」ための教育課程を実践していくのは誰か。

言うまでもなくそれは、各学校で子供の最も身近な存在である教職員にほかなりません。教職員それぞれが、子供一人一人の自己肯定感を養い、「いま」と「これから」に必要な資質・能力を養っていくという重要で崇高な営みを担っています。

しかしながら、現在、学校には様々な課題があります。社会の変化への対応は容易でなく、学校における働き方改革も途半ばです。それでも、子供一人一人が幸福に生きるために必要な力を養う学校教育を疎かにすることはできません。学校を、子供たちにとっても、教職員にとっても、魅力的な学びの場とするために、全ての大人が、それぞれの立場から誠実に関与していくことが求められます。

令和6年8月、中央教育審議会は「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について ~全ての子供たちへのよりよい教育の実現を目指した、学びの専門職としての『働きやすさ』と『働きがい』の両立に向けて~」を提言しました。答申にある三点(①学校における働き方改革の更なる加速化、②学校の指導・運営体制の充実、③教師の処遇改善)が着実に、一体的・総合的に推進されることを期待します。

この間の中央教育審議会答申を振り返ると、令和3年1月には、「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して ~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」が出されています。「多様な子供一人一人が自立した学習者として学び続けていけるようになっているか」という問いを立て、新学習指導要領に基づく「一人一人の子供を主語にする学校教育」を求めています。

また、令和4年12月には、「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」が答申されました。副題は「~『新たな教師の学びの姿』の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成~」で、教職が創造的で魅力ある仕事であり、その養成・採用・研修の一体的な改革により、教師が誇りを持って働くことができる職場環境を実現していくことが提言されています。

これらの答申を踏まえ、独立行政法人教職員支援機構(NITS)は、教職員に対する総合的支援を行う全国拠点として、教職員が児童生徒の豊かな学びを支える力を養えるよう検討を重ね、教職大学院や教育委員会とも協働して、研修参加者が主語になる学びの在り方を追究しています。実現したいのは、子供と教職員それぞれにとっての、「学校が楽しい」と「教職が面白い」です。

私たちは、職階別中央研修のカリキュラム改善を手始めに、模索と試行錯誤を繰り返し、研修マネジメント力協働開発プログラム、課題探究型研修であるコア研修、教育行政リーダー研修等を新たに開設してきました。今後さらに、新しい教職員研修の在り方について具体化していきます。また、今年度からは、各地域で教職員研修に関する学び合いの場を調えていきたいと考えています。

これまでの模索と試行錯誤に基づく私たちの現在の考えについては、令和6年4月、『「研修観の転換」に向けたNITSからの提案(第一次)~豊かな気付きの醸成~』としてまとめました。そこでも述べていますが、教職員研修は、参加者が「新しく知識やスキルを知ること」だけでなく、「自身の教職経験と関連付けながら知識やスキルについて知り、参加者の中に豊かな気付きが生まれる」ことが重要だと考えています。この『NITSからの提案(第一次)』は冊子にするとともに、当機構ウェブページにおいて公開しています。

私たちは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大という状況を経験しました。その後も社会は激しく変化を続け、また、大きな自然災害も度重なっています。

その中で今日も、子供たちそれぞれが未来に向けて生きています。その伴走者として教職員は、子供を見つめ、日々努力し、工夫し、学びを重ねています。

多様な子供一人一人が主語になって、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実により、主体的・対話的で深い学びを実現していくことのできる学校に。

一人一人の教職員が主語になって学び、誇りを持ち、やりがいを感じながら教育活動を進めていける学校に。

その実現のために私たちも試行錯誤と省察を重ね、心を込めて取り組んでいきたいと考えています。