NITSインタビュー ~学びのスパイス~

第1回 荒瀬克己理事長[後編]

独立行政法人教職員支援機構(以下、NITS)では、役職員や教育関係者へのインタビューを通して、教育に関わる知見を広く提供するとともに、より多くの教職員や教職員を目指すみなさんに、NITSについて知り、関心を持っていただくことで、日々のちょっとしたスパイスになればとの想いから、「NITSインタビュー ~学びのスパイス~」を始めます。

第1回は、NITSの荒瀬克己理事長です。前・後編の2回に分けてお届けします。今回はその後編です。

――その後、教育委員会や大学を経て、令和3年4月NITSの理事長に。着任が決まった時はどう思いましたか?

作家・劇作家の井上ひさしの文章で、「恩送り」に関するこんなエピソードがあります。書店でお金を払わずに辞書を持ち出そうとしたら、店の人に気付かれて怒られます。そして、裏庭で薪を割る作業をさせられるのですが、その対価で辞書を買ったことにしてくれたんです。その時の恩を返したいのに、店の人はすでに亡くなっていてできない。その代わり、お世話になった人や次世代の人たちに、自分にできることをすることで返していく、というものです。

私も、これまでいろんな人たちに支えられてきました。「教職員支援機構」という組織の名前を聞いた時、お世話になったみなさんに「恩送り」できるのではないかと思いました。

――現在NITSでは、「研修観の転換」に向けて様々な取組を進めています。

令和6年12月に行った「NITSフェローミーティング」が、そのうちの大きな一歩だと考えています。フェローのみなさんには、それぞれの個性を活かしながら、バレーボールで言えば「リベロ」、サッカーで言えば「ボランチ」のように、必要に応じてフレキシブルに動く役割を担っていただきたいと考えています。取組を進めていくうえで、どのような在り方がよいかは、引き続き考え、工夫を重ねていく必要があると思っています。

また、令和4年度から実施している探究型研修※注1についても、省察し、評価しなければならないと考えています。現在のやり方で見落としてしまっていることはないか、まだ出会っていない切実な要望があるのではないかといったことを、意識しておかなければなりません。

形を完成させるということと、同時にその形がそれでよいかと問うこと、常にその両方を行っていくことが大事だと思っています。

――序盤に、「学校で学ぶことは何のためになるのか」「学校で何を学ぶのか」が一生の問いになった、と伺いました。現時点での、この問いに対する考えをお聞かせください。

学校で過ごす時間は、「これから先、豊かに生きていくための準備期間」だと考えます。多様で多彩な準備を子供自身ができる。とりわけ、自分で選択し、必要に応じて軌道修正できる、やり直せると信じる力を身につけることが重要だと思っています。

――教育を通じて、社会がどのようになっていくとよいと思いますか?

物事が誰か一人だけの考えで決まるのではなく、みんなが意見を出し合い、合意によってよい方向に進んでいくことが欠かせないと考えます。教員をしていた時、「学ぶことで人は幸福になれるのだろうか」と思うことがよくありました。異なる意見を大切にする、多様な他者と折り合いをつける、多くの納得が得られるように努力する、民主的な社会をつくることも教育の役割であると思っています。

――荒瀬理事長は、お弁当を自ら作るなど料理がお得意ですよね。最近作って、特においしかったものを教えてください。

どれもおいしかったので選ぶのが難しいのですが(笑)。最近は、アスパラガスの牛肉巻きがおいしかったですね。新鮮なアスパラガスがない時には、ズッキーニを棒状に切って巻くこともあります。また、手の込んだ料理もおいしいですが、湯豆腐とか、素材で食べる料理も好きです。エノキや春菊、カイワレ大根を入れて、ポン酢で食べるだけで大満足です。

荒瀬理事長自作のお弁当の写真
写真提供:荒瀬理事長

――私も挑戦してみようと思います。本日は、ありがとうございました。

※注1:探究型中央研修(各地域で学校教育において中心的な役割を担う教職員の探究に向かう力の涵養を主たる目標とする研修)